ヘルスケア広告に携わる人なら「薬機法や景品表示法の知識には自信がある」という方が多いかと思います。しかし薬機法や景品表示法と並んでおさえておかなければならないのが、そう「健康増進法」です。
健康増進法には「広告規制ガイドライン」と呼ばれる広告実務に大きくかかわる指針があります。違反すれば、事業者名の公表になるケースも少なくありません。
本稿では
- 広告規制ガイドラインのなかでも重要な意味を持つ「付近ルール」に関し、
- 付近ルールに抵触するケース
- 付近ルールに抵触しないケース
- 健康増進法の罰則など
について解説していきます。
情報の信ぴょう性については
- 日本でただ一人消費者庁に公的文書の誤りを指摘・改善させた実績
- 消費者庁及び公正取引協議会主催「景品表示法務検定」アドバンス(合格者番号APR22000 32)
- ハウス食品、エーザイ、NTTDoCoMo、徳間書店など上場企業との取引実績多数
- 東京都福祉保健局主催「食品の適正表示推進者」
- 民間企業主催の薬事法関連資格(薬事法管理者資格、コスメ薬事法管理者資格、薬機法・医療法遵守認証広告代理店、美容広告管理者など)
- わかさ生活に薬機法広告の専門家としてインタビューを受ける
をもつ専業薬機ライターが解説します。
健康増進法とは
この法律は、我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い、国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ることを目的とする。
健康増進法第一条
健康増進法は昔の栄養改善法に代わるもので、その内容には栄養改善法の条文が引き継がれています。
健康増進法の規定で最も注意すべきが「広告規制ガイドライン」
ヘルスケア業界に大きなインパクトをもたらしたのが2003年の健康増進法改正に伴い発出された「広告規制ガイドライン」です。正式名称を「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針」といいます。
健康増進法も、発足当初は広告実務には影響を及ぼすものではありませんでした。しかし広告規制ガイドラインが出されて以後、実務は厳しく規制されることとなります。
健康増進法の広告規制ガイドラインで加えられた規制内容は大きく次の4つです。
「虚偽誇大広告の禁止」
「付近ルール」
「あっせんルール」
「媒体責任」
今回は付近ルールに絞って解説します。他の規制についてはこちらの記事が参考になります。
付近ルールとは
付近ルールとは「商品やその成分を書籍やHPで解説する場合、解説の付近から商品販売ページに容易にアクセスできたり販売業者の連絡先がある場合、健康増進法に抵触する可能性がありますよ」というものです。なお、「商品」は健康増進法の規制対象となる「食品」に限られます。
ガイドラインでは、次のように規定しています。
書籍、冊子、ホームページに特定の食品又は成分に係る学術的解説を掲載する場合であっても、その解説の付近から特定食品の販売ページに容易にアクセスが可能である場合や、販売業者の連絡先が掲載されている等の場合は規制対象となる場合があり得る
たとえば次のようなケースは付近ルールに抵触します。
【付近ルールに抵触する】
- HPに「△△(商品名)がとてもよかった」と掲載し、その付近に販売ページのURLが貼られている
- 雑誌のなかで「△△(商品名)が体に良いのは××という理由からだ」と掲載し、その付近に販売業者の連絡先情報などがある
- パンフレットのなかで「〇〇という成分が健康に良い」とし、付近に「〇〇なら△△(商品名)で摂取できます」などと掲載する
ガイドラインには明記されていませんが、基本的にNGとなるのは販売業者が作成している(もしくは販売業者と利害関係にある)書籍、冊子、ホームページなどに商品やその成分についての解説をあげているケースと考えられます。
というのもヘルスケア業界では、やらせやステルスマーケティングなどの自作自演手法が問題となっているからです。
たとえば2016年のクロレラチラシ事件で争点のひとつとなったのが、チラシ作成主が販売業者の「サン・クロレラ販売」なのか、同社が別団体であると主張する広告主の「日本クロレラ療法研究会」なのかかです。
クロレラチラシ事件
適格消費者団体が、サン・クロレラ販売が「日本クロレラ療法研究会」名義で広告した折込チラシが景品表示法の不当表示と消費者契約法の不実告知にあたるとして差し止め請求を求めた事件
チラシでは、クロレラの特定の成分が、がんや糖尿病の治療に効果があると標ぼう。同チラシを見た消費者が資料請求を行うと、「サン・クロレラ販売」の商品カタログが送付される仕組みになっていた。
しかし医薬品でないにもかかわらず薬効を標ぼうすることは、景品表示法の優良誤認表示、消費者契約法上の不実告知にあたるとして京都の適格消費者団体が広告差し止めを請求。
最終的に「サン・クロレラ販売」の役員と「日本クロレラ療法研究会」の会長が同一人物であることや所在地が同じであること、サン・クロレラ販売が研究会の広報活動費用を全て負担していることなど4点から、両者は一体であると認定され、優良誤認表示にあたるとの判決が下された。
付近ルールが設定された背景には「バイブル商法」の横行があります。
バイブル商法とは、健康食品や代替療法に関して、その効能、理論、体験談等を書いた本(バイブル本)を実質的な広告にして法規制を抜けようとする商法です。
健康食品は医薬品ではないため効能をうたえば薬機法上の問題が生じます(未承認医薬品広告)。
健康増進法上も誇大広告の規定により表現が制限されます。そこでこれらの規制を回避するために、表現の自由がある出版物の形で効能をうたうのがバイブル商法です。ステルスマーケティングの一形態でもあるバイブル商法は当時問題視されていました。
ここでいう「付近」とは通常「同一ページ内」を指します。
健康増進法の罰則
健康増進法に違反した場合、勧告、措置命令などの行政処分、罰金や懲役などの刑事処分を課されることがあります。刑事事件になるケースは稀ですが、健康増進法の行政指導では社名公表になることもありますから、甘く見てはいけません。
行政指導
勧告
健康増進法に違反する表示をおこなった場合、厚生労働省よりその表示に関し必要な措置をとるべき旨の勧告を受けます(健康増進法第32条1項)。
措置命令
勧告を受けても措置をとらなければ、措置命令が出されます(健康増進法第32条2項)。
健康増進法の措置命令では多くの場合事業者名が公表されることとなります。
刑事罰
措置命令に従わなければ、「6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金」に処せられます(健康増進法第36条2項)
ただ、基本的に刑事処分になるのは行政指導をすべて無視した場合のみです。健康増進法で刑事処分になるケースはほとんどありません。
ルールを守って適正広告を
「付近ルール」は広告実務において極めて重大な意味を持つ取り決めです。しかしながら、あまり認知されておらず、解説しているところも少ないのが実際です。やや複雑ですが、違反となるポイントさえ押さえていれば、問題ありません。ルールをしっかりと把握し、実務に活かしましょう!
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