「A社製品の半額!!」「有効成分3倍!(当社従来製品比)」・・・広告でよく見られるフレーズです。自社や競合のサービス・製品を引き合いに出し、優位性をアピールする広告手法を『比較広告』といいます。国民性からか、日本では他社製品ではなく自社製品と比較することが多いですが、他社より優れているという広告は景品表示法上、認められるのでしょうか。
景品表示法務検定アドバンスの資格を持つ筆者が
- 景表法本文
- 比較広告に関する景品表示法上の考え方(比較広告ガイドライン)
を元に解説していきます。
比較広告は要件を満たせば認められる
景品表示法ではその第5条で不当表示として優良誤認表示や有利誤認表示を禁止しています。
しかし不当表示の禁止は自社製品や競争事業者の商品との比較そのものについて禁止し、制限するものではありません。つまり要件を満たせば比較広告は認められます。
そもそも景表法が優良誤認表示や有利誤認表示を禁止しているのは、競業他社よりも優れていると一般消費者が誤認し、結果として公平な選択を妨げる(商品・サービスの選択に影響を及ぼす)ためです。
したがって適正な比較広告といえるためには次の要件を満たす必要があります。
- 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
- 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
- 比較広告の方法が適正であること
比較広告が認められるための要件1:比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
「客観的に実証されている」というためには次の点に考慮する必要があります。
(1) 実証が必要な事項の範囲(What)
(2) 実証の方法および程度(How)
(3) 調査機関(Who)
(1) 実証が必要な事項の範囲(What)
まず考慮しなければならないのが何を実証するのか(What)です。
たとえば、「X市で調査した結果、A商品よりB商品の方が優秀であった。」という比較広告をおこなう場合には、
① X市において、A商品とB商品との優秀性に関する調査が行われていること
② 主張するような調査結果が出ていること
が必要になります。
(2) 実証の方法および程度(How)
次に問題となるのが実証の方法および程度(How)です。
- 実証の方法
- どこまでの証明が求められるのか
は、比較する商品等の特性の実証方法に確立されたものがあるかどうかによって異なります。
【確立された方法がある場合】
確立された方法がある場合その方法によって、おこなう必要があります。たとえば、自動車の燃費効率について比較する場合、「10モード法」と呼ばれる方法によっておこなわなければなりません。
【確立された方法がない場合】
確立された方法がない場合には
- 「社会通念上」「経験則上」妥当な方法で
- 主張しようとする事実が存在すると認識できる程度まで
おこなうことが求められます。
「社会通念上・経験則上妥当な方法」や「事実が存在すると認識できる程度」はどのように判断する?
ではここでいう「社会通念上及び経験則上妥当と考えられる方法」や「主張しようとする事実が存在すると認識できる程度」はどのように判断するのでしょうか。
それは
「比較する商品の特性、広告の影響の範囲及び程度等から総合的に判断することとされています。
- 自社製品と他社製品に対する消費者の印象度について、相当広い地域で比較広告をおこなうような場合
⇒相当数のサンプルを選んでおこなった調査での実証が必要。 - 中小企業者が、低額の商品について一部の地域に限定して比較広告をおこなうような場
合
⇒比較的少ない数のサンプルを選んでおこなった調査での実証でも可能。[/su_box]
また、公的機関が公表している数値や事実、比較対象商品等を供給する事業者がパンフレット等で公表し、かつ、客観的に信頼できると認められる数値や事実については、実証されているものとして取り扱うことができます。
✓比較する商品等の特性について確立された方法がある場合にはその方法によって、おこなう
✓確立された方法がない場合には社会通念上及び経験則上妥当と考えられる方法によって、主張しようとする事実が存在すると認識できる程度まで、おこなう
✓公的機関が公表している数値や事実、比較対象商品等を供給する事業者がパンフレット等で公表し、かつ、客観的に信頼できると認められる数値や事実については、表示可能
(3) 調査機関(Who)
そして、誰が調査するのか、調査機関(Who)です。
客観性、中立性からして調査をおこなう機関として望ましいのは、広告主とは関係のない第三者機関(国公立の試験研究機関などの公的機関、中立的な立場で調査、研究をおこなう民間機関など)です。
ただし、広告主と関係のない第三者のおこなったものでなくとも、実証方法等が妥当なものである限り、これを比較広告の根拠として用いることができます。
✓調査機関は広告主とは関係のない第三者機関が望ましい
✓広告主と関係ない第三者がおこなったものでなくても、その実証方法などが妥当なものである限り可能
比較広告が認められるための要件2: 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
客観的に実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用する場合には、通常一般消費者が誤認することはないので、不当表示とはなりません。
「正確かつ適正に引用する」というためには、以下の事項に留意する必要があります。
(1) 調査結果の引用の方法
(2) 調査方法に関するデータの表示
(1) 調査結果の引用の方法
実証の根拠となる調査が一定の限られた条件の下で行われている場合には、同じ条件下での比較として引用する必要があります。公平を期すためです。
また調査結果の一部を引用する場合には、調査結果の趣旨に沿って引用しなければなりません。
温暖地用のエンジンオイルの性能に関する比較広告において、温暖地での比較実験の結果のみを根拠に自社製品が国内のすベての地域において優秀であるかのように主張する。
⇒主張する事実(自社製品が国内のすベての地域において優秀である)についてまでは実証がないこととなり、不当表示に当たるおそれがあります。
多数の項目にわたって比較テストをしている調査結果の一部を引用する場合に、自己の判断でいくつかの項目を恣意的に取り上げ、その評価点数の平均値を求めるなど、調査結果の本来の趣旨とは異なる形で引用し、自社製品の優秀性を主張する。
⇒引用元の調査は多数の項目の比較を趣旨とした調査であるのに、都合よく一部分だけ切り取り、調査の趣旨と異なる形で引用しているため不当表示に当たるおそれがあります。
✓調査結果の一部を引用する場合には、調査結果の趣旨に沿って引用すること
(2) 調査方法に関するデータの表示
調査結果を引用して比較する場合には
- 調査機関
- 調査時点
- 調査場所
などの調査方法に関するデー タを広告中に表示することがベストです。
広告スペースには限りがあるため、「調査方法を適切に説明できる限り、これらのデータの省略は可能」としています。
しかしながら、調査機関や調査時点等をあえて表示せず、調査の客観性や調査時点等に ついて一般消費者に誤認を生じさせることとなるような場合には、不当表示となるおそれがあります。
⇒「100人中60人がA商品よりB商品の方が使い心地がよいと言った。」とのデータをあたかも第三者機関によりおこなわれた調査結果であるかのように表示しているものの、実際は自社の調査結果です。不当表示に当たるおそれがあります。
✓調査機関、調査時点、調査場所等の調査方法に関するデータを広告中に表示することが適当
✓広告スペースなどの関係から、調査方法を適切に説明できる限り、これらのデータの省略は可能
✓調査機関や調査時点等をあえて表示せず、調査の客観性や調査時点などについて一般消費者に誤認を生じさせることとなるような場合は不可
比較広告が認められるための要件3:比較の方法が公正であること
比較の方法が公正である場合には、一般消費者が誤認することはないので、不当表示となりません。 「比較の方法が公正である」というためには、以下の事項を考慮する必要があります。
(1) 表示事項(比較項目)の選択基準
(2) 比較の対象となる商品等の選択基準
(3) 短所の表示
(1) 表示事項(比較項目)の選択基準
一般にどのような事項について比較したとしても特に問題はありません。
しかしながら、特定の事項について比較し、それが商品等の全体の機能、効用等にほとんど影響がないにもかかわらず、あたかも商品等の全体の機能、効用等が優良であるかのように強調するような場合には、不当表示となるおそれがあります。
⇒一般消費者が自社製品は従来の他社製品と比ベ、全体的に優れた画期的な製品であると誤認しかねないため不当表示に当たるおそれがあります。
【最大級の表現を用いる場合のポイント】
最大級の表現でも、不当表示になるケースとならないケースがあります。
基準は、次の2点です。
- 合理的根拠の有無
- 商品用途と関係している事項についてであるか
たとえば「世界一」と表示する場合、まずは“世界一”とする合理的根拠が必要です。合理的根拠がない場合は不当表示にあたるおそれがあります。
また合理的根拠があっても、適正広告といえるためには“世界一”なのは、その商品の用途と関わりがある事項についてであることが必要です。
実際には商品にとって重要でない事項について世界一であるにもかかわらず単に「世界一」としたのでは、その商品全体が世界一優れているとの誤認を与えかねないためです。
✓特定の事項について比較し、それが商品等の全体の機能、効用等に商品等の全体の機能、効用等にほとんど影響がないにもかかわらず、あたかも商品等の全体の機能、効用等が優良であるかのように表記するのは不可
(2) 比較の対象となる商品等の選択基準
一般に、比較の対象として、競争関係にあるどのような商品等を選択しても問題はありません。
しかしながら、社会通念上又は取引通念上、同等でないとして認識されているものと比較し、あたかも同等のものとの比較であるかのように表示する場合には、不当表示となるおそれがあります。
自社のデラックス・タイプの自動車の内装の豪華さについて比較広告する場合に、他社製品のスタンダード・タイプのものの内装と比較し、グレイドが異なることについて触れず、あたかも同一グレイドのもの同士の比較であるかのように表示する
⇒一般消費者が豪華さの比較が同一グレイドのもの同士の比較であると誤認しかねず、不当表示に当たるおそれがあります。
また、製造又は販売が中止されている商品であるにもかかわらず、あたかも現在製造又は販売されている商品であるかのように表示することも、不当表示となるおそれがあります。
自社の新製品と他社の既に製造が中止されている旧型製品を比較し、特に旧型製品との比較であることについて触れず、あたかも新製品同士の比較であるかのように表示する
⇒一般消費者が新製品同士の比較であると誤認すしかねず、不当表示に当たるおそれがあります。
✓製造又は販売が中止されている商品などと比較しているにもかかわらず、あたかも現在製造又は販売されている商品などとの比較であるかのように表示する場合は不可
(3) 短所の表示
ある事項について比較する場合、これに付随する他の短所を表示しなかったとしても特に問題はありません。
しかしながら、表示を義務付けられており、又は通常表示されている事項であって、主張する長所と不離一体の関係にある短所について、これを殊更表示しなかったり、明りょうに表示しなかったりするような場合には、商品全体の機能、効用等について一般消費者に誤認を与えるので、不当表示となるおそれがあります。
土地の価格を比較する場合において、自社が販売する土地が安価なのは高圧電線の架設予定があるためなのにもかかわらず、これについて特に触れない。
⇒土地が安価なのは、高圧電線の架設予定があるというデメリットがあるがゆえなのに、それについて触れないと、不当表示に当たるおそれがあります。
✓表示義務があったり通常表示されている事項について、主張する長所と不離一体の関係にある短所を表示しなかったり、明りょうに表示しなかったりするような場合は不可
要件を満たさない場合優良誤認表示・有利誤認表示として罰せられる可能性
以上、適正な比較広告として認められるための要件
- 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
- 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
- 比較広告の方法が適正であること
を満たさない場合、景品表示法第5条の規定する不当表示(優良誤認表示・有利誤認表示)に抵触する可能性があります。
措置命令
景品表示法に抵触すると判断された場合、まずは消費者庁から措置命令が下ります。
【措置命令で下される命令】
違法な広告であったことの一般消費者に周知徹底
再発防止策を自社の役員や従業員に周知徹底
広告の停止
刑事罰
措置命令に従わない場合、「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金あるいはその両方」が科されることがあります(景品表示法36条)。
さらに、法人には、「3億円以下の罰金」が科されることとなります。
課徴金(売上額×3%)
また原則として課徴金納付命令も出ます。
課徴金の額は、売上額の「3%」、対象となる期間は最長で摘発時からさかのぼって3年間です(除斥期間)
ただ、景品表示法には課徴金の減免規定があり、条件を満たせば課徴金が減額・免除となります。くわしくはこちらの記事で解説しています。
https://life-lighter.com/low/keihyoho/case-nissan/
比較広告には細心の注意を
比較広告自体は不当表示には当たりませんが、「比較広告に関する景品表示法上の考え方」により細かく規定されていますから細心の注意が必要です。さらに景品表示法に適合していても、媒体社の審査基準によっては通らないこともあります。
比較広告はともすれば低俗なイメージを与え、ブランド価値を毀損しかねません。そもそも比較広告が有効なケースなのか、根本からきちんと検討したうえで出稿することが肝要といえるでしょう。
参考:消費者庁通知「比較広告に関する景品表示法上の考え方(昭和62年発出、平成28年4月1日改正)
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