令和6年(2024年)10月1日に改正景品表示法が全面施行されます。この改正では「確約手続」や「直罰規定」などあまり聞かない用語が多く出てきます。そこ今回は改正景品表示法について、なるべく専門用語を使わず、わかりやすく解説していきます。
情報の信ぴょう性については
- 日本でただ一人消費者庁に公的文書の誤りを指摘・改善させた実績
- 消費者庁及び公正取引協議会主催「景品表示法務検定」アドバンス(合格者番号APR22000 32)
- ハウス食品、エーザイ、NTTDoCoMo、徳間書店など上場企業との取引実績多数
- 東京都福祉保健局主催「食品の適正表示推進者」
- 民間企業主催の薬事法関連資格(薬事法管理者資格、コスメ薬事法管理者資格、薬機法・医療法遵守認証広告代理店、美容広告管理者など)
- わかさ生活に薬機法広告の専門家としてインタビューを受ける
をもつ専業薬機ライターが解説します。
景品表示法とは
景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)とは、消費者保護を目的に昭和 37 年に制定された法律です。消費者に誤解を与える表示(優良誤認表示など)を禁止する表示規制などを定めています。
令和6年10月1日施行景品表示法改正の背景
改正景品表示法は令和5年(2023年)5月10日に成立し、同月17日に公布されました。2023年10月1日からスタートしたステルスマーケティング規制は、この改正法が一部施行されたものです。
前回の改正(2014年11月)の際、5年後を目安に改正することが決まっていたため、改正に至りました。
近年悪質な違反行為が増加しており、抑止力強化の必要性が高まっていることが、改正の内容に反映されています。
本改正の柱は以下3つです。
- 事業者の自主的な取組の促進
- 違反行為に対する抑止力の強化
- 円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等
以下、それぞれ詳しく解説します。
1.事業者の自主的な取組の促進
第一の柱は、事業者の自主的な取組の促進です。
確約手続の導入(第26条~第33条)
確約手続の導入(第26条~第33条)
改正法では「確約手続」が導入されます。確約手続の導入は本改正の目玉です。
確約手続とは
確約手続とは、不当表示等の違反行為に対して、企業が自ら進んで問題解決策を講じることにより、消費者への影響を小さくする制度です。企業側のメリットは、措置命令や課徴金納付命令が免除されることです。
改正の背景
これまで、事業者が不当表示等の違反行為をしても、消費者庁がとれる対応は行政処分(措置命令・課徴金納付命)を行うか、行政指導(指導・勧告)を行うかの二つだけでした。
また事業者のなかには違反行為をしてしまった後、消費者への影響をできる限り小さくするための取り組みを自ら進んで行うものもいます。
例
- 表示等の早期是正
- 再発防止策の実施
- 一般消費者への返金など
しかしこれまではこうした事業者の自主的な取り組みを評価するための制度はありませんでした。
そこで、確約手続に関する規定(第26条~第33条)が新設されたわけです。
確約手続の流れ
- 消費者庁が事業者に「確約手続通知(違反が疑われる行為の概要や法令の条項等が通知)」を行い、是正措置計画(確約計画)の提出を求める。
- 事業者は「確約手続通知」が通知されてから60日以内に確約計画を作成。確約認定申請を提出する。
- 消費者庁が審査する。
- 認定基準をクリアした場合、確約計画が認定される
- 措置命令や課徴金などの法的措置がとられない
ただし確約手続はどんなケースでも認められるわけではありません
悪質性の高い違反行為や、過去10年以内に法的措置を受けた事業は対象外です。どこからが「悪質性が高い」と判断されるかはまだ未定ですが、運用が始まれば確約計画が公表されるので、そこから推測できるかもしれません。
確約手続きについて、詳しくはこちらの記事で解説しています。
2.違反行為に対する抑止力の強化
本改正の第二の柱は、違反行為に対する抑止力の強化です。
- 課徴金制度における返金措置の弾力化(第10条第1項の改正)
- 課徴金制度の見直し‐課徴金額の加算(第8条5項及び6項)の新設
- 罰則規定の拡充‐直罰規定(第48条)の新設
課徴金制度における返金措置の弾力化(第10条第1項の改正)
改正の背景
課徴金制度における自主返金制度(第10条・第11条)が平成26年11月の改正で導入されたものの、ほとんど活用されていません。制度開始から令和5年までの利用件数はわずか4件にとどまります。
これでは、消費者の被害回復という自主返金制度の目的が十分に果たせません。そこで、返金措置の仕組みを改善し、事業者の利用を促進する必要があるとの判断に至ったのです。
改正後
電子マネー等での返金ができるようになります。(第10条第1項の改正)
対象となる支払い方法
電子マネーや、クオカードなどが対象です。ビール券や特定地域や機関・使用可能期間が限定されているものなどは支払いに使えません。
例
- 地域の商品券
- アマゾンギフト券
- 支払い期間が限定されているもの
- 使用できる期間に定めがあるポイント
課徴金制度の見直し‐売上額の推計規定(法第8条第4項)の新設
改正の背景
課徴金納付命令が発出されるときは、消費者庁の調査が入るのですが、その際、必要書類が準備できない等の理由で、正確に売上額を報告できない事業者が存在します。
このような事業者がいることで、対象期間中の売り上げを正確に把握することができず、課徴金納付命令までに要する期間が長期化するおそれがあります。
そこで、正確な売上額が分からなくても、推計できる制度を新設したのです。
改正後
対象期間における売上額を、推計することができる規定が整備されます(第8条第4項)
推計方法は、課徴金の基礎を計算できる期間から日割り計算します。(詳しくお知りになりたい事業者様は個別にご連絡ください)
課徴金制度の見直し‐課徴金額の加算(第8条5項及び6項)の新設
改正の背景
現行法においては、「違反を繰り返す事業者」と「そうでない事業者」のどちらに対しても課徴金の算定率は3%です。これでは不公平が生じますし、違反を繰り返す事業者に対する抑止力が働きません。そこで、違反を繰り返す悪質な事業者に対して課徴金算定率を1.5倍にする規定が新設されました。
改正後
悪質な事業者に対する課徴金の割増規定が設けられます。
具体的には10年以内に再犯(課徴金対象行為)した事業者に対して、5割増しで課徴金の納付を命じることができるようになります。
課徴金額が加算される場合の要件
課徴金額が加算される場合の要件は次のとおりです。
- 基準日から遡り10年以内に、課徴金納付命令を受けたことがあること(確定している場合に限る。)
- 当該課徴金納付命令の日以後において課徴金対象行為をしていた者であること
基準日は、以下の各法定の手続が行われた日のうち最も早い日とします。
- 報告徴収等(法第25条第1項)
- 課徴金納付命令に関する不実証広告規制における資料提出命令(法第8条3項)
- 課徴金納付命令に係る弁明の機会の付与に関する通知(法第15条第1項)
要するに課徴金額が加算されるのは、【課徴金納付命令を受けてから10年以内に、報告徴収等(法第25条第1項)または課徴金納付命令に関する不実証広告規制における資料提出命令(法第8条3項)もしくは課徴金納付命令に係る弁明の機会の付与に関する通知(法第15条第1項)を受けた事業者】です。
罰則規定の拡充‐直罰規定(第48条)の新設
改正の背景
不当表示にあたることを分かった上で優良誤認表示・有利誤認表示を行う、悪質な事業者が存在します。
このような悪質な事業者に対しては、刑事罰を課し抑止しなければなりませんが、現行法では、刑事罰を課すためには行政処分を経る必要があります。そこで不当表示を直接罰する規定(直罰規定)が新設されました。
改正後
悪質な優良誤認表示・有利誤認表示に関する直罰規定(第48条)が新設されます。
具体的には故意に行われた優良誤認表示・有利誤認表示に対して、措置命令などの行政処分を経ず、刑事罰(100万円以下の罰金)を課すことができるようになります(直罰規定)。
3.円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等
第三の柱は、円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等です。
- 国際化の進展への対応(第41条~第44条)
- 適格消費者団体による開示要請規定の導入(第35条)
国際化の進展への対応‐送達制度の整備・拡充、外国執行当局に対する情報提供制度の創設(第41条~第44条)
改正の背景
近年グローバル化が進み、海外事業者の不正行為について行政処分をするのが難しくなりました。
たとえばBtoC取引の国際化が進んでいますが、措置命令については命令書や各種通知等を送る際の「送達規定」が整備されていません。BtoC取引の国際化に対応するには、措置命令についても送達規定を整備する必要があります。
また海外事業者によって日本の一般消費者へ向けた不当表示が行われた際、適切な対応をするためには、その事業者が所在する国との協力体制を強化していかなければなりません。
そこで海外の執行当局への情報提供がスムーズに行うことを可能にする規定が新設されたわけです。
海外事業者に対する措置命令の事例
2018年1月26日、消費者庁はオンラインゲーム『THE KING OF FIGHTERS’ 98UM OL』を運営する中国企業アワ・パーム・カンパニー・リミテッドに対して有利誤認表示で措置命令を発出。
措置命令の対象となったのはゲーム内「クーラ限定ガチャ」の出現率に関しての表示。なお、2021年3月19日に消費者庁は同社に対し609万円の課徴金納付命令を発出している。
改正後
送達制度の整備・拡充に関する規定等(第41条~第44条)が新設されました。
これにより、海外の執行当局に対する情報提供が円滑に行われることが期待されます。
適格消費者団体による開示要請規定の導入(第35条)
適格消費者団体による開示要請規定の導入されます。
実は現行法でも、適格消費者団体が優良誤認表が疑われる表示を行っている事業者に対して合理的根拠の開示請求をすることはできます。改正法ではこの適格消費者団体による合理的根拠の開示請求権に、法的根拠が与えられた形です。
改正の背景
適格消費者団体は、事業者の優良誤認表示に対して差止請求(法第34条第1項) を行う場合に、その表示が不当であること(表示された効果、性能がないこと)の立証責任を負います。しかしながらその立証には大きな負担がかかります。 特に効果、性能に関しては表示が不当であることを立証するには専門機関による分析、調査が必要になるケースが少なくありません。
そこで適格消費者団体による合理的根拠の開示請求権を法定化し、事業者の表示が不当であることの立証を行いやすくしたわけです。
改正後
適格消費者団体による開示要請規定(第35条)が新設されます。
優良誤認表示が疑われる場合、適格消費者団体は事業者に対し、表示の裏付けとなる根拠資料を開示するよう要請することができるようになります※1。事業者は、 当該要請に応じる努力義務を負います※2。
※1ただし、根拠資料の開示請求ができるのは、優良誤認表示を疑うに足りる根拠がある場合です。
※2営業秘密(不正競争防止法(平成5年法律第47号)第2条第6項)が 含まれる場合など正当な理由がある場合は、努力義務を負わないこととされています。
改正景品表示法への備えが成功の分かれ道!早期に万全の対策を
2024年10月1日前面施行の改正景品表示法は、事業者に大きな影響を与える内容となっています。なかでも直罰規定(第48条)、課徴金の割増規定(第8条5項及び6項)は事業活動に直接的に関わります。
昨今は景品表示法の取り締まりが強化され、コンプライアンス体制の構築が必須です。景品表示法は故意過失問わず処分の対象になります。「知らなかった」はとおりません。
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