健康増進法の広告ガイドライン|違反しないための3つの心構え

イェス

健康増進法と聞けば、受動喫煙や電子タバコに関する規制を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし実は健康増進法には「虚偽誇大広告規制」や「あっせんルール」「付近ルール」などヘルスケア広告に大きく関係する規制もあります。違反すれば社名公表や刑事処分になるケースもあり、内容を正確に把握しておかなければ取り返しのつかない事態になりかねません。

そこで本稿では

  • 健康増進法とはなにか
  • 健康増進法の広告規制
  • 広告ガイドライン
  • 健康増進法の罰則
  • 違反しないためのポイントなど

について

  • 景品表示法務検定アドバンス(消費者庁、公正取引協議会主催)
  • 食品の適正表示推進者(東京都福祉保健局主催)など

を所有する専業薬機ライターが解説します。

目次

健康増進法とは

ヘルスケア広告において「薬機法」や「景品表示法」に配慮しなければならないことは、今やほとんどの事業者が知るところとなっています。しかし実は薬機法や景品表示法と並んで気を付けなければならないのが健康増進法です。

国民の健康維持と現代病予防を目的として作られた法律

健康増進法は、国民の健康維持と現代病予防を目的として作られた法律です。

この法律は、我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い、国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ることを目的とする。

健康増進法第一条

昔の栄養改善法に代わって2002年8月2日に公布されたもので、その内容には栄養改善法の条文が引き継がれています。様々なな規制がありますが、広く知られているのは受動喫煙に関するルールでしょう。

しかし実は健康増進法には、サプリメントなど健康食品に大きくかかわるルールがあるのです。

改正に伴い広告規制ガイドラインが出された

健康増進法も、発足当初は広告実務には影響がありませんでした。ところが2003年の改正にともない

食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(以下広告規制ガイドライン)」

が出されます。この広告規制ガイドラインが以後ヘルスケア業界に大きな影響を与えることとなります。

健康増進法の広告規制ガイドラインの内容

健康増進法の広告規制ガイドラインで加えられた規制内容は大きく次の4つです。

  1. 「虚偽誇大広告の禁止」
  2. 「付近ルール」
  3. 「あっせんルール」
  4. 「媒体責任」

1:虚偽誇大広告の禁止

改正健康増進法は第32条2項で次のとおり規定しています。

「何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他厚生労働省令で定める事項(以下「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない(第32条2)」

これが虚偽誇大広告の禁止と呼ばれる規制です。

「偽りの広告、大げさな広告で消費者を騙すのはやめましょう」というもので、以下の要件を満たした場合に規制対象となります。

  1. 表現対象が健康保持増進効果であること
  2. 表現形態が広告とみなされること
  3. 表現内容が誤認を招く内容であること

虚偽誇大広告の要件

1表現対象が健康保持増進効果であること

前提として広告規制ガイドラインの規制対象になるのは

  • 免疫力向上
  • 病の治癒
  • 痩身

など、健康保持増進効果です。

  • パソコンの動作性能アップ
  • 運気向上
  • 燃費向上

など健康保持増進効果以外のものは対象になりません。

2表現形態が広告とみなされること

表現形態が広告とみなされる場合、取り締まりの対象となります。広告とみなされるのは以下の3要件を満たした場合です。

  1. 顧客の購入意欲を煽る意図が明確にあること
  2. 商品名等が明らかにされていること
  3. 一般の人が認知できる状態にあること

一方

  • 社内でのみ使う資料
  • 開発段階の商品
  • 一部の人しか閲覧できない状態にある

といった場合広告には当たらず、規制対象にはなりません。

3表現内容が誤認を招く内容であること

広告に誤解を招く表現をもちいると、消費者が損害をうけかねません。そこで広告規制ガイドラインでは、消費者に誤認を与えるような広告内容について厳しく制限しています。

「誤認を招く」にあたる表現は、以下のa~fに該当するものとされています。

a、医師の治療がなくてもガン、糖尿病、心臓病等の病が治ると謳っている

b、最上級の表現(絶対、最高級、日本一など)を用いている

c、引用された学術データが科学的根拠として採り得ない(適切な方法により実証されていない等の理由により)

d、表記されている効果のデータが臨床試験(ヒトでの試験)によるものでない

e、 ××博士が発表したのは、A社のキノコについての効果であるにもかかわらず、B社が「そのキノコ自体に効果があると発表されている」とPRしている

f、体験談を捏造している、自己に好都合な箇所のみを掲載している

参考:広告規制ガイドライン|消費者庁

a~fはいずれも摘発事例がありますが、なかでも検挙件数がずば抜けて多いのが

a医師の治療がなくてもガン、糖尿病、心臓病等の病が治ると謳っている

b最上級の表現(絶対、最高級、日本一など)を用いている

c引用された学術データが科学的根拠として採り得ない

の3つです。

このうち、特に注意を要するのが「c学術データを引用された学術データが科学的根拠として採り得ない」です。

「a医師の治療がなくてもガン、糖尿病、心臓病等の病が治ると謳っている」と「b最上級の表現(絶対、最高級、日本一など)を用いている」は規制に配慮しさえすれば比較的簡単に違反は避けられます。

他方、「c引用された学術データが科学的根拠として採り得ない」については、そうはいきません。というのも、学術データが科学的根拠として採り得るか否かは行政の側で判断するものであるので、企業側が主張しても、通らないことがあるためです。

またこれらa~fに該当すれば即摘発されるのか、といえばそういうわけでもありません。

行政措置の判断は

  • 時勢
  • 業界の動向
  • 消費者ニーズ

などさまざまな要素を加味したうえでおこなわれるからです(詳しくは後述)。

[su_box title=”虚偽誇大広告は景品表示法の「優良誤認表示」とどう違う?” box_color=”#001f33″]

・優良誤認表示の禁止(景品表示法)は、あらゆる商品・サービスが規制対象

・虚偽誇大広告の禁止(健康増進法)は食品(サプリメントや健康食品)のみが規制対象

あれ?虚偽誇大広告の禁止って景品表示法の「優良誤認表示の禁止」と似てない?

こんな風に思われた方もいるのではないでしょうか。「虚偽誇大広告の禁止」と同じく大げさな表現を禁止するものに、景品表示法の「優良誤認表示の禁止」があります。

2つの違いはいったい何なのでしょうか。

虚偽誇大広告表示の禁止は「食品として販売に供する物に関して」「著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示」を禁ずるものです。

対して景品表示法における優良誤認表示の禁止は、「商品又は役務の品質規格その他の内容について」「実際の商品・サービスよりも著しく優れていると消費者に誤認されかねない表示」を禁止します。

つまり規制の内容はほぼ同じ。違うのは、規制対象です

景品表示法の優良誤認表示の禁止は、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について」つまりあらゆる商品・サービスが規制対象であるのに対し、健康増進法の虚偽誇大広告の禁止「食品として販売に供する物に関して」つまり食品(サプリメントや健康食品)のみが規制対象となります。

[/su_box]

2:付近ルール

広告規制ガイドラインのなかでも実務に大きく関係するのが、『付近ルール』です。

ガイドラインでは、次のように規定しています。

書籍、冊子、ホームページに特定の食品又は成分に係る学術的解説を掲載する場合であっても、その解説の付近から特定食品の販売ページに容易にアクセスが可能である場合や、販売業者の連絡先が掲載されている等の場合は健康増進法に該当する可能性がある

書籍、冊子、ホームページ内に特定の食品や成分に関する解説(効能、理論、体験談など)の掲載がある場合、以下に当てはまるケースでは、健康増進法に抵触する可能性があるということです。

  1. URLが貼られているなど商品の販売ページに容易にアクセスが可能である
  2. 販売業者の連絡先が掲載されている

たとえば次のようなケースです。

  • 雑誌のページに「△△(商品名)がとてもよかった」と掲載し、その付近に販売ページのURLが貼られている
  • 商品とは直接関係のないHPのなかで「△△(商品名)が体に良いのは××という理由からだ」と掲載し、その付近に販売業者の連絡先情報などがある

「〇〇という成分が健康に良い」とし、付近に「〇〇なら△△(商品名)で摂取できます」などとするのもNGです。

付近ルールが設定された背景には「バイブル商法」の横行があります。

[su_box title=”バイブル商法とは” box_color=”#003f66″ radius=”4″]

バイブル商法とは、健康食品や代替療法に関して、その効能、理論、体験談等を書いた本(バイブル本)実質的な広告にして法規制を抜けようとする商法です。

健康食品は医薬品ではないため効能をうたえば薬機法上の問題が生じます(未承認医薬品広告)。

健康増進法上も誇大広告の規定により表現が制限されます。そこでこれらの規制を回避するために、表現の自由がある出版物の形で効能を謳うわけです。ステルスマーケティングの一形態でもあるバイブル商法は当時問題視されていました。

[/su_box]

ここでいう「付近」とは通常「同一ページ内」を指します。

3:あっせんルール

あっせんルールとは、書籍等が特定の販売業者をあっせんする広告の役割を果たしているとみなされる場合、健康増進法に抵触する可能性がある旨を定めたルールです。

ガイドラインでは次のように規定しています。

特定の食品又は成分の健康保持増進効果と、それに関する書籍の「お問合わせは○○相談室へ」等の記述の関係について、「○○相談室」が特定の販売業者をあっせん等していることが認められる場合、実質的に

(1)顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確にある事、

(2)特定食品の商品名等が明らかにされていること、

(3)一般人が認知できる状態にある事

に該当する場合は、その書籍等を広告等として取り扱うこととする

以下3つの条件に該当する場合、書籍等が広告とみなされます。

(1)顧客の購入意欲を煽る意図が明確にあること

(2)商品名等が明らかにされていること

(3)一般の人が認知できる状態にあること

広告として取り扱われると、何が問題なのでしょうか。虚偽誇大広告の要件をもういちど確認しましょう。

  1. 表現対象が健康保持増進効果であること
  2. 表現形態が広告とみなされること
  3. 表現内容が誤認を招く内容であること

でしたね。

つまり広告であることは虚偽誇大広告の必要条件なのです。

健康保持増進効果を標ぼうし、誤認を招く内容であっても表現形態が広告とみなされなければ虚偽誇大広告として処罰されることはありません。

これを逆手に取り広告規制から逃れるために次のような表示をおこなうケースもあります。

  • 「広告ではありません」「これは勧誘を目的としたものではありません」「商品名や価格は掲載していません」「表示しているのは物質名で商品名ではありません」「成分と商品名は関係ありません」など、規制対象外である旨をアピールしている一方で、商品名と効能効果を同時に掲載し、容易に判別できる形で記載している。
  • 商品名や文言の一部を伏せる、文字をぼかす、写真や画像イメージのみを表示するなどして規制の対象から外す行為をしているが、商品の認知度や文言、使用画像から商品を特定できる状態である。
  • 特定の食品や成分の健康保持増進効果等に関する書籍や冊子、ホームページ等の形態をとっているが、その説明の付近に当該食品の販売業者の連絡先やホームページへのリンクを一般消費者が容易に認知できる形で記載している

つまり広告の要件(1)~(3)に該当することを回避しようとしているわけです。しかしながら上記のケースでも、実質消費者を誘引する「広告」として判断され、規制対象になります。

間接的なあっせんでもNG

注意しなければならないのが、「間接的なあっせんでも不可」であることです。たとえば以下のようなケースは直接的には紹介していませんが、あっせん行為とみなされる恐れがあります。

本文では商品の特徴を紹介するにとどまっていて、商品名やメーカー名などは触れていない。しかし巻末に掲載された連絡先に問い合わせれば、商品名やメーカー情報を入手できる仕様になっている。

あっせんルールについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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4:媒体責任

健康増進法法の広告規制ガイドラインのなかでもとりわけメディアへの影響が大きいのが、「媒体責任」です。

健康増進法が改正されるまでは、メディアはなんら規制を受けることなく、自由に表記することが許されていました。なぜなら日本国憲法はその21条に「表現の自由」を規定しているためです。

実際、好き放題表現するテレビや雑誌、webサイトは多数見受けられました。ところが2003年の改正健康増進法の施行により、状況は一変します。

改正健康増進法では次のように規定しています。

何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他厚生労働省令で定める事項(以下「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない(第32条2)」

注目すべきは、主語が「何人も」となっている点。

規制対象は当該食品等の製造業者、広告主、販売業者等に限定されるものではなく、メディア(webサイト)や、アフィリエイターなどにも及ぶようになったわけです。

※ただ、実務上はメディアが責任を負うのは予見可能性があったときのみとされています。つまり、広告主が虚偽の資料を提出し、メディアがそれと知らない場合は、メディアは責任を負わないことになります。

この改正健康増進法施行(2003年8月29日)を境にメディアは大きく自主規制の方向に流れ、それまで簡単に通過できてたサプリメントの広告審査が厳しくなり、一気に通りにくくなってしまったのです。

健康増進法の罰則

罰則

健康増進法に違反した場合、勧告、措置命令などの行政処分、罰金や懲役などの刑事処分を課されることがあります。刑事事件になるケースは稀ですが、健康増進法の行政指導では社名公表になることもありますから、甘く見てはいけません。

行政指導

勧告

健康増進法に違反する表示を行った場合、厚生労働省よりその表示に関し必要な措置をとるべき旨の勧告を受けます(健康増進法第32条1項)。

措置命令

勧告を受けても措置をとらなければ、措置命令が出されます(健康増進法第32条2項)。

健康増進法の措置命令では多くの場合事業者名が公表されることとなります。

刑事罰

措置命令に従わなければ、刑事罰です。「6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金」に処せられます(健康増進法第36条2項)。

健康増進法で刑事事件になるケースはほとんどない

このように、健康増進法違反をした場合まずは行政処分を受け、勧告、是正措置命令という流れになります。ただ、基本的に刑事処分になるのは行政指導をすべて無視した場合のみです。健康増進法で刑事処分になるケースはほとんどありません。

健康増進法に違反しないための3つの心構え

健康増進法は積極的に騙そうとする意志がなくても、摘発されてしまうことがあります。
健康増進法に違反しないためにはどのようなことに気を付ければいいのでしょうか。

心構え1:ガイドラインに沿って広告を作成する

まずは、ガイドラインが示す広告表示規制の内容をきちんと理解し、広告作成にあたることが重要です。

・広告とみなされるのはどんなケースか?

・誤認を招く内容になっていないか?

・紛らわしい表現をしていないか?

・効能解説の付近に商品情報を記載していないか?

・間接的にもあっせんする形となっていないか?

一つひとつ、確認しましょう。

心構え2:最上級の表現を使わない

もとより健康の保持増進の効果というものは、個人差があります。
つまり他社製品等に対して優位性を立証すること自体、本来ならば不可能なのです。

したがって

  • 「日本一」
  • 「史上初」
  • 「最高」

といった最上級の表現、これに類する表現を用いると虚偽誇大表示にあたる可能性が高いといえます。

心構え3:「悪気なく」「うっかり違反」してしまうのが健康増進法と肝に銘じる

注意してください過剰表現や虚偽表記を取り締まる景品表示法は、「煽りまくって稼ごう」「ユーザ―を騙して儲けよう」という下心がなければ、摘発されることはあまりありません。

しかしそもそも業者の取り締まりを目的としない健康増進法では、「誠心誠意の」「悪意のない」広告でも摘発されてしまうことがあるのです。

ですから摘発されないために大事なのは

健康増進法は悪気なく違反してしまうものであることを念頭におき、常に細心の注意をはらう

この姿勢です。

普段から丁寧な広告作成作りを心がけることが大切

健康増進法は、国民の健康を守るための法律です。健康増進法違反で刑事処分となることはほぼありません。しかしながら、健康増進法の措置命令では事業者名が公表されます。ヘルスビジネスにおいては一度でも悪名が広まれば、致命的なことは言わずもがなです。

普段からガイドラインに気を配りながら慎重に広告を作成すること、消費者庁に違反を指摘されたら、迅速に対応することが大切といえるでしょう。

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