2023年3月28日に消費者庁がステルスマーケティングの法規制についての運用基準を公表しました。2023年10月1日から運用が開始されるステマ規制はインフルエンサーマーケティングを行う企業に甚大な影響を与えます。
本稿では、ステルスマーケティング規制がインフルエンサーマーケティングに与える影響を一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準やステルスマーケティングに関する検討会 報告書、WOMJ ガイドラインを基に解説していきます。
情報の信ぴょう性については
- 日本でただ一人消費者庁に公的文書の誤りを指摘・改善させた実績
- 消費者庁及び公正取引協議会主催「景品表示法務検定」アドバンス(合格者番号APR22000 32)
- ハウス食品、エーザイ、NTTDoCoMo、徳間書店など上場企業との取引実績多数
- 東京都福祉保健局主催「食品の適正表示推進者」
- 民間企業主催の薬事法関連資格(薬事法管理者資格、コスメ薬事法管理者資格、薬機法・医療法遵守認証広告代理店、美容広告管理者など)
- わかさ生活に薬機法広告の専門家としてインタビューを受ける
をもつ専業薬機ライターが解説します。
ステルスマーケティングとインフルエンサーマーケティングの関係性
まずは、ステルスマーケティングとインフルエンサーマーケティングについておさらいしておきましょう。
ステルスマーケティングとは広告であることを隠す広告手法
ステルスマーケティングとは広告主が広告であることを隠したまま宣伝することです。ステルス(英語: stealth)は英語で「隠密」を意味します。
「やらせ」「サクラ」等とも呼ばれ、以前から問題視されてはいたのですが、直接的に規制する法律がなく長年グレーゾーンとして黙認されていたのです。
しかしついに日本でも2023年3月28日に消費者庁が「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を指定し、運用基準を公表しました。
2023年10月1日から景品表示法第5条3号の指定告示に追加され、ステルスマーケティングが違法になります。
実はステルスマーケティングは欧州などではずいぶん昔から規制されている行為です。
たとえばアメリカの米国連邦取引委員会(FTC)は、2009年にネイティブ広告に関する指針を定めた「広告における推奨及び推薦の利用に関するガイド」(Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising)」という指針を発表しています。
インフルエンサーマーケティングとは影響力のある人に広告してもらう手法
インフルエンサーマーケティングとは、有名な人や影響力のある「インフルエンサー」を使って、製品やサービスを宣伝する手法です。
従来の広告手法より低コストで認知を拡大できるなどのメリットがあります。
特に若年層やSNSを頻繁に利用する人たちにアプローチしやすく、商品の購入促進につながる手法であり、多くの企業が取り入れています。
他方でデメリットもあります。
インフルエンサーが商品紹介の際に、広告であることを明示しない、すなわち実質的にステルスマーケティングをおこなうケースがあることです。
ステルスマーケティングに関する検討会 報告書によると、インフルエンサーの投稿のうち2割程度での割合でステルスマーケティングと思しきものが存在しています。
「インフルエンサーの投稿について、問題がないかを全て確認したところ、100 件の うち、20 件程度の割合でステルスマーケティングと思われるような投稿が存在し た。」
消費者庁のステルスマーケティング事務局が実施した調査※でも、インフルエンサーによるステルスマーケティングの実態が露わになっています。
※インターネット調査(対象:インフルエンサーのマネジメント会社に登録している現役インフルエンサー300 名 実施期間:令和4年 8 月 17 日~同月 19 日)
たとえば「これまでに、あなたはステ ルスマーケティングを広告主から依頼された経験はありますか。」との質問に対し41%(123 人)のインフルエンサーが「はい」 と回答しています。
さらに約 45%(55 人)のインフルエンサーが、「前問でステルスマー ケティングの依頼をされた方に質問します。その依頼をどうしましたか。」との質問 に「全部受けた」又は「一部受けた」と回答しています。
ステマ規制により「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」は景品表示法の5条3号の指定告示あたり、不当表示にとして処罰対象になります。
ただ、もちろんインフルエンサーマーケティングそのものが違反になるわけではありません。次章から、どのようなケースでインフルエンサーマーケティングが違法になるのか見ていきましょう。
インフルエンサーマーケティングが違法になるケース・ならないケース
ステルスマーケティングで規制されるのは「事業者の表示であるにもかかわらず、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」です。
ステルスマーケティングの問題の本質は実際には「誘引性がある」のに「誘引性がないかのように見せる」ことで広告規制から逃れることにあります。
つまりポイントは誘引性が認められるか否かです。
インフルエンサーマーケティングが指定告示(景品表示法5条3号)違反にならないケース
まずはインフルエンサーマーケティングが指定告示(景品表示法5条3号)違反にならないケースです。
インフルエンサーとの間で表示内容について一切のやり取りがなされていないケース
事業者とインフルエンサーの間で表示内容について一切のやり取りがなされていない場合指定告示(景品表示法5条3号)に該当しません。
運用基準は以下のように規定しています。
事業者の表示とみなされない表示
事業者と当該アフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示を行う場合
インフルエンサーが自主的な意志に基づく内容として表示をおこなうケース
事業者が口コミの投稿そのものは依頼するものの、インフルエンサーが自主的な意志に基づく内容として表示をおこなう場合にも指定告示(景品表示法5条3号)に該当しません。
運用基準は以下のように規定しています。
事業者の表示とみなされない表示
表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。
インフルエンサーマーケティングが指定告示(景品表示法5条3号)違反になるケース
次にインフルエンサーマーケティングが指定告示(景品表示法5条3号)違反になるケースです。
内容を指示し、商品やサービスについての表示をしてもらうケース
SNSなどで企業がユーザーにある内容の表示を行うように依頼・指示(指定)した場合、指定告示(景品表示法5条3号)違反になります。
たとえば以下のようなケースです。
×この内容で投稿してください。
・事業者が指定した内容をインフルエンサーにSNSで投稿させる場合。
×こういうレビューを投稿してください
×アフィリエイト広告の内容はこんな感じでお願いします。
事業者が第三者をして行わせる表示について
ア 事業者が第三者をして行わせる表示が事業者の表示となるのは、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合であって、例えば、以下のような場合が考えられる
・事業者が第三者(著名人やインフルエンサー)に対して、当該第三者のSNS上に当該事業者の商品又は役務に係る表示をさせる場合。
・ECサイトに出店する事業者が、仲介事業者や当該事業者の商品の購入者に依頼して、当該商品について、ECサイトのレビューを通じて表示させる場合。
・事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示(比較サイトやポイントサイト等における表示も含む。)を行う際に、アフィリエイターに委託して、当該事業者の商品又は役務について、表示させる場合事業者が第三者をして行わせる表示について
ア 事業者が第三者をして行わせる表示が事業者の表示となるのは、事業者が第三
者の表示内容の決定に関与している場合であって、例えば、以下のような場合が考
えられる。
(ア) 事業者が第三者に対して当該第三者のSNS(ソーシャルネットワーキング
サービス)上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場
合。
(イ) EC(電子商取引)サイトに出店する事業者が、いわゆるブローカー(レビ
ュー等をSNS等において募集する者)や自らの商品の購入者に依頼して、購
入した商品について、当該ECサイトのレビューを通じて表示させる場合。
(ウ) 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイ
ターに委託して、自らの商品又は役務について表示させる場合。
(注) 「アフィリエイトプログラム」とは、インターネットを用いた広告手法
の一つである(以下広告される商品又は役務を供給する事業者を「広告主」
と、広告を掲載するウェブサイトを「アフィリエイトサイト」と、アフィ
リエイトサイトを運営する者を「アフィリエイター」という。)。アフィリ
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エイトプログラムのビジネスモデルは、比較サイト、ポイントサイト、ブ
ログその他のウェブサイトの運営者等が当該サイト等に当該運営者等以
外の者が供給する商品又は役務のバナー広告、商品画像リンク及びテキ
ストリンク等を掲載し、当該サイト等を閲覧した者がバナー広告、商品画
像リンク及びテキストリンク等をクリックしたり、バナー広告、商品画像
リンク及びテキストリンク等を通じて広告主のサイトにアクセスして広
告主の商品又は役務を購入したり、購入の申込みを行ったりした場合等、
あらかじめ定められた条件に従って、アフィリエイターに対して広告主
から成功報酬が支払われるものであるとされている。
(エ) 事業者が他の事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、
自らの競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した、
低い評価を表示させる場合
暗示的に表示を依頼する場合も不可
第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性があると判断できる場合、暗示的に表示を依頼する場合もステルスマーケティングとみなされる可能性があります。
違反時のリスクは
では、ステルスマーケティングの規制に違反した場合どのようなリスクがあるのでしょうか。
措置命令
指定告示に違反した場合、措置命令が下されるおそれがあります。
ただし指定告示では課徴金納付命令がされることはありません。
信用失墜
信用失墜にもつながります。
顧客の信用を失うことは、措置命令よりも大きなダメージを招きかねません。
措置命令が下されると、ニュースやテレビで取りあげられます。
報道時のニュアンスはこうです。
「あの会社の商品・サービスは実は嘘でした」
当然、否定的な口コミや評価は瞬く間に広まるでしょう。ブランド価値は地に落ち、新規顧客の獲得が困難になるかもしれません。
企業が取るべき対策は
では企業はどのような策を講じる必要があるのでしょうか。
企業が取るべき策①:そもそも表示内容を指定しない
第三者の自主的な意思による表示内容と認められれば、ステルスマーケティングは成立しません。そのため、そもそも表示内容について一切指定しないことが重要です。
企業が取るべき策②:表示内容を指定する場合広告である旨を明記する
表示内容を指定する場合、広告であることを明示しなければいけません。文言の指定はありませんが、「PR」「タイアップ」「宣伝」などと表記するよう、インフルエンサーに要求しましょう。
運用基準では以下を例示しています。
ア 「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言による表示を行う場合
イ 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示を行う場合
もっともこれらの文言を使用していたとしても、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっていないとみなされる場合、ステルスマーケティングと判断されるリスクはあります。
不安な場合、womマーケティング協議会のガイドラインに沿った表記をおこないましょう。
WOMマーケティング協議会とは、口コミマーケティング協会(WOMMA)の略称です。
2009年に発足し、消費者が製品やサービスについて「正しく情報を知る権利」を尊重し、口コミで情報を共有することを中心としたマーケティング戦略に関する調査、研究、協議をおこなっています。
公的機関ではありませんが、womマーケティング協議会のガイドラインに沿って表記をおこなえばステルスマーケティングとはみなされません。
企業が取るべき策③:「リツイート」や「いいね」をする場合、違反表現がないか事前に確認
企業アカウントで「いいね」や「リツイート」をする場合、違反表現がないか事前に確認が必要です。
2021年11月30日、ジャーナリストの伊藤詩織氏の裁判で「いいね」や「リツイート」を意思表示とみなす判決が出ました。
企業側がその内容決定に一切関与していない場合でも第三者の表示に「いいね」や「リツイート」などのリアクションをとってしまうと、誘引性が認められ、その表示は企業の広告という扱いになってしまうわけです。
そのためインフルエンサーの自主的な意思に基づく表示であっても、企業が「いいね」や「リツイート」をすると企業の広告になり、そこに違反表現があれば、企業が処罰の対象となります。
ステルスマーケティングの規制法制化は2023年10月1日から!
ステルスマーケティングの規制は今年の10月1日からです。インフルエンサーマーケティングを行っている企業は、早めに対策を講じておきましょう。弊社ではアフィリエイターやインフルエンサーに対する法律マニュアル作成もおこなっています。まずはご相談ください。