「通常価格9,980円のところ、今ならなんと3,000円引きの6,980円です!!」このようなフレーズを、見聞きしたことはありませんか。こうした販売価格とともに比較対照となる価格を表示する手法を二重価格表示と呼びます。二重価格表示そのものはれっきとした広告手段のひとつで、合法です。しかし二重価格表示も内容が不当と判断されれば景品表示法で罰せられることになります。
本稿では
- 二重価格表示が不当表示にあたるケース
- 不当表示になった場合のペナルティ
- 不当表示とみなされないためのポイント
などを解説していきます。信ぴょう性については
- 景品表示法務検定アドバンス(消費者庁、公正取引協議会主催)
- 食品の適正表示推進者(東京都福祉保健局主催)など
を所有する専業薬機ライターが
- 景品表示法本文
- 不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(価格表示ガイドライン)
をもとに執筆しておりますのでご安心ください。
二重価格表示とは販売価格と別の価格を併記する広告手法
二重価格表示とは「通常価格9,980円のところ今なら3,000円引きの6,980円」など、販売価格(6,980円)とは別の価格(9,980円)を併記する広告手法です。この販売価格とは別の価格(9,980円)を「比較対照価格」と呼びます。
二重価格表示そのものは合法
二重価格表示そのものにはなんら違法性はありません。
比較対照価格を販売価格と併記して表示すること(=二重価格表示)は、顧客に安いと思わせる有効な広告手段のひとつです。
「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方 (以下ガイドライン)」では二重価格表示について次のように示しています。
第4 二重価格表示について
1 二重価格表示についての基本的考え方 二重価格表示は、事業者が自己の販売価格に当該販売価格よりも高い他の価格(以下「比較対照価格」という。)を併記して表示するものであり、その内容が適正な場合には、一般消費者の適正な商品選択と事業者間の価格競争の促進に資する面がある。
不当な価格表示についての景品表示法上の考え方第4
不当な二重価格表示は処分対象に
二重価格表示そのものは違法ではありませんが、比較対照価格が事実と異なっていたり、不合理な価格になっていると「販売価格が安くなっている」との誤認を消費者に与えるおそれがあります。
そこで景品表示法ではガイドラインでは二重価格表示に関するルールを設けています。不当表示に当たるとみなされた二重価格表示は処分の対象になります。
第4 二重価格表示について
…促進に資する面がある。 しかし、次のように、二重価格表示において、販売価格の安さを強調するために用いられた比較対照価格の内容について適正な表示が行われていない場合には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある
不当な価格表示についての景品表示法上の考え方第4
景表法ガイドラインのルール
二重価格表示についての基本的考え方
基本的に、以下のようなケースは不当表示とみなされます。
【NG】
- 同一ではない商品の価格を比較対照価格として表示する場合
- 比較対照価格について実際と異なる表示やあいまいな表示をする場合
つまり不当表示になるのは以下のような場合です。
- 品質や性能が異なる商品の価格を比較対照価格として表示する
- 実際にその価格で販売されたことがないにもかかわらず、その価格を比較対照価格として表示する
不当な二重価格表示となるケースは?
では、具体的にどのようなケースで二重価格表示が不当表示になるのでしょうか。ガイドラインでは以下の5つ比較対照価格を用いるケースについて触れています。以下、ガイドラインに基づき解説していきます。
- 過去の販売価格
- 他店の販売価格
- 将来の販売価格
- メーカー希望小売価
- 他の顧客向けの販売価格
①過去の販売価格を比較対照価格とする場合
過去の販売価格を比較対照価格とした二重価格表示をおこなう場合があります。
- 「当店定価〇〇」今なら〇〇円
- 「
〇〇円」→期間限定〇〇円
過去の販売価格を比較対照価格として併記する場合、以下の2つの条件を満たしていなけばなりません。
- 同一の商品であること
- 最近相当期間にわたって販売されていた価格であること
1同一の商品であること
過去の販売価格を比較対照価格とする場合、引き合いに出している商品が、品質・性能面において販売しようとする商品と同一性が認められることが必要です。中古品などを販売する際に、新品の販売価格を比較対照価格とすることも認められまん。
2最近相当期間にわたって販売されていた価格(最近相当期間価格)であること
最近相当期間にわたって販売されていた価格(=最近相当期間価格)であることも求められます。
「最近相当期間にわたって販売されていた価格」といえるかどうかは、次のように判断されます。
- セール開始時点からさかのぼる8週間(商品が発売されていた期間が8週間未満のときは、その期間)において、比較対照価格に用いようとする価格で販売されていた期間がその商品が販売されていた期間の半分を超える
- 比較対照価格で販売されていた期間が通算して2週間以上ある
- 比較対照価格で販売された最後の日から2週間を経過していない
通算して2週間も販売していない場合、そもそも最近「相当」期間とは言えないよね
要件②「比較対照価格で販売されていた期間が通算して2週間以上ある」は要件①「セール開始時点からさかのぼる8週間(商品が発売されていた期間が8週間未満のときは、その期間)において、比較対照価格に用いようとする価格で販売されていた期間がその商品が販売されていた期間の半分を超える」だけでは、ごく短期間しか販売されていないものでも「最近相当期間価格」といえることになってしまうため、比較対照価格に用いようとする価格で販売されていた期間があまりにも短いものは、適当ではないとして設けられたルールです。
最後に販売された日から2週間以上経過している場合、もはや「最近」ではないよね
③は要件①「セール開始時点からさかのぼる8週間(商品が発売されていた期間が8週間未満のときは、その期間)において、比較対照価格に用いようとする価格で販売されていた期間がその商品が販売されていた期間の半分を超える」のうち適当でなものを除外するためには要件②「比較対照価格で販売されていた期間が通算して2週間以上ある」だけでは不十分であることから設けられたルールです。
なお相当期間については10月1日~11月15日のように必ずしも連続している必要はありません。
比較対照価格で販売されていた期間を通算して評価します。
たとえば4/1からセールを開始する場合、以下のようになります。
- 2/27~3/26まで販売していた価格……最近相当期間価格として認められる
- 2/27~3/12まで販売していたが品切れにより一時販売休止。3/20~3/26まで再度販売していた価格……最近相当期間価格として認められる
- 3/27~3/31まで販売していた価格……最近相当期間価格として認められない
- 2/25~3/15まで販売していた価格……最近相当期間価格として認められない
NG例1:実際の販売価格より高い額を比較対照価格に掲示
A家電小売店が、「A社4Kテレビ 当店通常価格 58,000 円の品 40,000 円」と表示しているが、実際には、通常 45,000円で販売している
実際に販売されていた価格よりも高い価格(58,000円)を、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であるとの印象を与えるため不当表示に当たる可能性があります。
NG例2:販売していた期間がごく短期間である価格を比較対照価格とする
Aエステサロンが、「リフトアップコース 当店通常料金 12,000 円を 9,500円」と表示しているが、実際には過去の販売期間(8週間)のうち、比較対照価格(12,000 円)で販売されていた期間は当初2週間だけであり、その後の6週間はこれより低い価格で販売されていた
実際には短期間しか販売した実績がないにもかかわらず、ある程度の期間にわたって販売されていた価格であるとの印象を与えます。
【購入されていなくても販売している事実があれば可】
ここでいう「販売されていた」については「実際に販売している事実があったか否か」を見るものです。実際に消費者に購入された実績までは必要ありません。
購入されていなくても販売している事実があればOKです。
ただし、形式的な販売はNG
ただし、形式的に一定の期間にわたって販売されていたとしても、
- そもそも消費者が認知しにくい場所に陳列するなど販売形態が通常と異なっている
- 比較対照価格として表示するための実績づくりのためだけに一時的にその価格で販売していた
といった場合には、「販売されていた」とはみなされません。小細工は無意味ということですね。
過去の販売価格を比較対照価格に用いた二重価格表示のルールは極めて複雑です。こちらの記事でより深く解説しています。
②他店の販売価格を比較対照価格とする場合
他店の販売価格とは
- 「市価」
- 「他店価格」
などとして表示される価格です。
他店の販売価格を比較対照価格とする場合、たとえば次のケースで不当表示とみなされる恐れがあります。
【NG】
- 最近時の市価や競争事業者の販売価格よりも高い価格を市価として比較対照価格に用いる
- 商圏が異なるなど一般消費者が購入する機会のない店舗の販売価格を比較対照価格に用いる
NG例1:最近時の市価よりも高い価格を市価として比較対照価格に用いる
A家具店が、「 B社パソコンチェア市価 9,000 円のものを 3,500 円」と表示しているが、実際には、A家具店が販売している地域内の他の家具店では、最近時において 3,000 円から 4,000 円で販売
A家具店は実際より高い9,000 円をパソコンチェアの市価として比較対照価格に用いています。実際には地域内の他の家具店では3,000 円から 4,000 円で販売されているにもかかわらず、消費者は9,000 円が市価であると誤認する恐れがあります。
NG例2:最近時の競争事業者の販売価格よりも高い価格を当該競争事業者の販売価格として比較対照価格に用いる
B家電量販店が、「空気清浄機D、C店 108,000 円の品 80,000 円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品についてC店では最近時において 70,000 円で販売
B家電量販店は空気清浄機DのC店における価格を108,000 円として比較対照価格に用いています。そのため実際にはC店では最近時において 70,000 円で販売されているにもかかわらず、消費者はC店では空気清浄機DKは108,000 円で販売していると誤認する恐れがあります。
NG例3:商圏が異なり一般消費者が購入する機会のない店舗の販売価格を比較対照価格に用いる
また上記2つの事例に該当しなくても通常消費者が購入することがないであろう店舗の販売価格を比較対照価格として用いると不当表示にあたる可能性があります。
E衣料品販売店が、「紳士用皮革ベルト F店で 12,000円の品 7,800円」と表示しているが、F衣料品販売店は、50㎞離れた隣町にある
⇒E衣料品販売店はF衣料品販売店の価格を比較対照価格として用いていますが、F衣料品販売店は、50㎞離れた隣町に位置し、事実上消費者がE衣料品販売店で買い物をする機会はないと考えられるため不当表示にあたる可能性があります。
また特定の競争事業者の販売価格と比較する場合は、その事業者の実際の販売価格及び事業者の名称を明示しなければなりません。
市価を比較対照価格に用いるときは、地域内の事業者の相当数が実際に販売している価格を用いなければなりません。
たとえば地域内の事業者のうち数社しか20,000円で販売していないのに「市価20,000円のところ当店では17,000円」とすれば不当表示とみなされるおそれがあります。
「市価」や「相当数」はケースにより異なる。 数値の根拠を用意しておこう
しかし実務上、問題となってくるのが「市価」や「相当数」はどのように判断すればいいのか、ということです。「市価」や「相当数」の示す範囲については難しいところがありますがガイドラインでは、個別に判断されるものとしています。根拠を尋ねられた際、きちんと答えられるよう、調査を万全にしておくことが重要です。
③将来の販売価格を比較対照価格とする場合
「今だけ○○円!来週からは○○円」
など、将来の販売価格を比較対照価格とする場合があります。ですがこの将来の販売価格に根拠がなければ、消費者が損失を被る可能性があります。
そこでガイドラインでは、将来の販売価格を比較対照価格として併記しながらその将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないときには、不当表示に該当するおそれがあるとしています。
ここでいう「将来における販売価格が十分な根拠のあるものでないとき」とは以下の2つとされています。
- 実際に販売することのない価格
- ごく短期間のみ当該価格で販売する場合
留意すべきが、実際に販売することのない価格だけでなく、短期間のみ当該価格で販売する場合も十分な根拠のあるものでないとき”に含まれる点です。
NG例1:実際に販売することのない価格で販売している
「ダイエットサプリ 期間限定価格5,000円 〇月〇日以降は7,000円になります」と表示しながら、実際には同じ商品を〇月〇日以降も5,000円で販売している
〇月〇日以降も販売価格を引き上げる予定がないにもかかわらず、7,000円という将来の販売価格を比較対照価格として併記しているため消費者に不利益を与える可能性があります。
NG例2:ごく短期間のみ当該価格で販売する
「ダイエットサプリ 期間限定5,000円 〇月〇日以降は7,000円になります」と表示しているが、〇月〇日以降に7,000円で販売したのはわずか2日
〇月〇日以降に実際に販売価格の引き上げはしたものの、2日というごく短い期間であり、実質的には販売価格の引き上げはしていないに等しいといえ、消費者に不利益を与えるおそれがあります。
将来の販売価格を比較対照価格に用いても直ちに違反となるわけではありません。ただし、その価格で販売することが確実であるような場合を除き、将来の販売価格を比較対照価格として二重価格表示をすることはなるべく控えるべきというのが消費者庁の見解です。
過去の販売価格が過去における販売実績に基づく確定した事実として存在するのに対し、将来の販売価格は、これを比較対照価格とする二重価格表示を行っている時点においては、未だ現実のものとなっていない価格であり、将来における需給状況
等の不確定な事情に応じて変動し得るものである。このようなことからすれば、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示は、その表示方法自体に、表示と実際の販売価格が異なることにつながるおそれが内在されたものであるといわざるを得ず、(中略)、基本的に行うべきではないものである。
将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針
「将来の販売価格」で販売できない特段の事情が認められる場合はOK
将来の販売価格で販売できない「特段の事情」が認められる場合は、不当表示になりません。たとえば次のようなケースでは将来の販売価格で販売できない特段の事情があると認められます。
ケース①
A酒店が、『白ワイン 来月1日から7800円の品 現在セール中にて 5800円』と表示したが、表示した後に地震が発生し、A酒店の店舗が損壊したことにより、セール期間経過後に白ワインを販売できないとき」
ケース②
通信販売業者が、『除菌ハンドソープ今だけ セール価格700円 来月1日か ら1000円』と表示したが、表示後に新たな感染症が流行したため、需要の急増が生じ在庫がなくなり、仕入先の業者から納入してもらうこともできなくなったことにより、セール期間経過後に除菌ハンドソープを販売できないとき
つまり客観的第三者からみて、不可抗力といえる場合には不当表示にはならないということです。
タイムサービスを行う場合
タイムサービスによる二重価格表示は、値下げ前の価格で販売していたことが明らかであり、通常は不当表示に該当するおそれはないとされています。
「特定の商品について一定の営業時間に限り価格の引下げを行ったり、又は生鮮 食料品等について売れ残りを回避するために一定の営業時間経過後に価格の引 下げを行ったりする場合に、当初の表示価格を比較対照価格とする二重価格表示 が行われることがある。 このような二重価格表示については、通常は、不当表示に該当するおそれはな いと考えられる。 」
(引用元:消費者庁ガイドライン)
もっとも、タイムサービスによる場合であっても、比較の対照となる価格での販売実績がなく、架空のものとなるような場合はNGです。
④メーカー希望小売価を比較対照価格とする場合
「メーカ希望小売価格」を比較対照価格とするケースはよくみられます。摘発事例も非常に多いですからこの項目は詳しく解説していきます。
そもそも「メーカ希望小売価格」といえるためには、次の2つの要件を満たすことが必要です。
- 製造業者、卸売業者、輸入総代理店等が、小売業者の価格設定の参考のために自己の供給する商品について設定している価格であること。
- あらかじめ、新聞広告、カタログ、 商品本体への印字等により公表されている価格であること
ガイドラインでは、以下のようなケースは不当表示とみなれるおそれがあるとしています。
実際に設定された希望小売価格よりも高い価格を比較対照価格に用いる
希望小売価格が設定されていないにもかかわらず、任意で決めた価格を希望小売価格として比較対照価格に用いる
NG例1:希望小売価格よりも高い価格を希望小売価格として比較対照価格に用いている
「ゲーム機メーカー希望小売価格 75,000 円の品 58,000円」と表示しているが、実際には、メーカーが設定した希望小売価格は 67,000 円である
NG例2:希望小売価格が設定されていない
「ビジネススーツ メーカー希望小売価格 299,0000 円の品割引価格 180,000 円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、メーカーは希望小売価格を設定していない
ガイドラインではその他、以下のような事例も不当表示に当たる可能性があるとしています。
- ①プライベートブランド商品について小売業者が自ら設定した価格
②製造業者等が専ら自ら小売販売している商品について自ら設定した価格
③特定の小売業者が専ら販売している商品について製造業者等が当該小売業者の意向を受けて設定した価格を、希望小売価格として比較対照価格に用いる - 製造業者等が当該商品を取り扱う小売業者の一部に対してのみ呈示した価格を、希望小売価格として比較対照価格に用いる
- 販売する商品と同一ではない商品(中古品等を販売する場合において、新品など当該商品の中古品等ではない商品を含む。)の希望小売価格を比較対照価格に用いる
NG例3:小売業者等が自ら小売販売している商品について設定した価格を希望小売価格として比較対照価格に用いている
電気店が、「スマートフォン メーカー希望小売価格 30,000 円の品 18,000 円」と表示しているが、実際には、当該商品は同店が海外の事業者に製造委託 した自社ブランド商品
NG例4:製造業者等が当該商品を取り扱う小売業者の一部に対してのみ呈示した価格を、希望小売価格として比較対照価格に用いている
A家電小売り店が、「Bメーカー製外付けHDDメーカー希望小売価格 6,000 円の品 3,800 円」と表示しているが、実際には、当該希望小売価格は、Bメーカーが商 談の際にA家電小売り店を含む当該商品を取り扱う小売業者の一部にのみ呈示 した価格である
NG例5: 販売する商品と同一ではない商品の希望小売価格を比較対照価格に用いている
A電器店が、「○○社製電子レンジ メーカー希望小売価格 270,000 円の品 180,000 円」と表示しているが、実際には、当該希望小売価格は、販売する商品 の旧型など同一ではない商品のメーカー希望小売価格であ るとき
⑤他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする場合
他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする場合にも気を付けなければならない点があります。
「他の顧客向けの販売価格」とは分かりづらいと思いますので、ご説明します。
同じ商品・サービスであっても顧客の条件や購入時期といった個別の顧客条件によって、価格が異なる場合がありますね。
個別の顧客条件によって、価格が異なる例
- 会員と非会員で価格が異なる
- 繁忙期と閑散期の利用料金が異なる
このようなケースについての話です。顧客の条件に応じて販売価格に差が設けられている場合、以下のようなケースでは不当表示にあたる可能性あります。
NG
- 会員制の販売方法において非会員価格を比較対照価格に用いる場合
- 需要のピーク時における販売価格を比較対照価格に用いる場合
NG例1:会員制の販売方法において非会員価格を比較対照価格に用いる
宝飾店が、「純金パールネックレス非会員価格¥50,000 会員価格¥24,980」と表示しているが、実際には、購入を希望する一般消費者は誰でも容易に会員となることができ、非会員価格で販売されることはほとんどない
購入者は望めば簡単に会員になることができるため、非会員価格で購入する者はほとんどいないといえます。にもかかわらず、非会員価格を比較対照価格として用いているため、購入者に価格が安いとの誤認を与えかねません。
NG例2:需要のピーク時における販売価格を比較対照価格に用いる
旅館が、「宿泊料金(ツイン1泊2日食事なし)標準料金1人当たり 40,000 円のところ○月○日~○日に限り 20,000 円」と表示しているが、実際には、この比較対照価格は宿泊客が多い特定の期間において限定的に適用されている価格である
比較対照価格として用いている40,000は円は需要が多い時期の値段であるにもかかわらず、標準料金として掲げています。消費者は40,000円を標準料金であると誤認した結果、○月○日~○日の宿泊料20,000 円を安いと判断しかねません。
二重価格表示の措置命令
株式会社ジャパネットたかたの事例
2018年10月18日、株式会社ジャパネットたかたは最近相当期間にわたって販売された実績のない価格を「通常税抜き価格」と表示し、消費者庁より措置命令を受けました。
【概要】
2018年5月19日に配布した会員カタログなどでエアコン「シャープ エアコン 【G-TD シリーズ】(AY-G22TD)」など8商品において、「ジャパネット通常税抜価格 79,800 円」「2万円値引き」「さらに!会員様限定2,000円値引き」及び「値引き後価格 会員様特価57,800円」など、販売価格が通常ジャパネットたかたにおいて販売している価格に比して安いかのように表示。
しかし実際には「ジャパネット通常税抜価格」等と称する価額は、最近相当期間にわたって販売された実績のないものであった。消費者庁はこれらの表示が不当表示に当たるとし、措置命令を下した。
【結果】
本件について消費者庁は2020年12月23日、株式会社ジャパネットたかたに対し、景品表示法第8条第1項の規定に基づき、5,180万円の課徴金納付命令を下しています。
Amazonの事例
2017年12月27日、Amazonはクリアホルダーや甘酒など5商品でメーカー希望小売価格より高かったり根拠のなかったりする「参考価格」を表示し措置命令を受けました。
【概要】
「クリアホルダーA4 200枚入り」で、参考価格を根拠のない約1万9千円と表示して実際には約1500~2千円で販売、甘酒の参考価格をメーカー希望小売価格よりも高い3780円として約500~1千円で販売など実際の販売価格と比較して安いかのように表示。消費者庁はこれらの表示が不当表示に当たるとし、措置命令を下した。
【結果】
本件についてAmazon側は不服申し立て、2018年1月に処分取り消しを求め東京地裁に提訴します。しかし同年11月15日、Amazonの請求は棄却。続く控訴審でも敗訴しています。
楽天の事例
2014年4月5日には楽天もセール商品の元値を不当につり上げた価格を比較対照価格として用い、消費者庁より是正要請を受けています。
【概要】
2014年4月5日楽天市場の出店者が、楽天日本一セールなどセール商品の元値を不当につり上げた価格を比較対照価格として併記し、販売価格を大きく割り引いているかのよう表示し消費者庁から是正要請を受けました。
楽天は当初、店舗が独断で行ったこととして、不当表示が確認された17店舗について出店停止措置を発表します。しかし一部報道で楽天社員が店舗に指導していたのではないかとの指摘を受け、内部調査を実施。楽天の従業員18人が店舗に対して不当表示の提案を行っていたとする調査結果を発表するに至りました。
【結果】
消費者庁は楽天に対して不当な二重価格表示が行われないよう、以下の措置を講じることを要求しました。
- 楽天が再発防止策として示した営業倫理委員会の新設および監査体制の強化を着実に実施すること
- 調査結果について社内周知徹底を図ること
- 景品表示法についての理解の深化および遵守の徹底を図ること
不当表示(二重価格表示)に対するペナルティ
二重価格表示において不当表示とみなされた場合、次のような罰則が課せられることがあります。
- 行政指導(社名公表)
- 刑事罰(最大2年以下の懲役または300万円の罰金のいずれか、もしくはその両方)
- 課徴金(売上額の3.5%)
行政指導
二重価格表示が不当表示にあたる場合、行政指導の対象となります。
事業者は、消費者庁から「措置命令」を受ける可能性があります。景品表示法の措置命令では社名公表になることも少なくありません。
景品表示法の広告規制についてこちらの記事で詳しく解説しています。
刑事罰
命令に従わない場合
最大2年以下の懲役または300万円の罰金のいずれか、またはその両方を科される可能性があります。
また法人である場合は、従業員(違反者)とは別に法人に対して
最大3億円の罰金
が科される可能性があります。
課徴金納付命令
さらに不当表示にあたる行為をした場合には、措置命令とは別に「課徴金納付命令」を受けることになります。
課徴金の額は、不当表示により得た商品の売上額の3%です。
ただ、算出された課徴金の額が150万円未満のときは、課徴金は課されませんので、不当表示により得た売り上げが5,000万未満の場合は課徴金納付の必要はありません。
景品表示法の課徴金免除規定についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
違反しないためには?
①過去の販売価格を比較対照価格とする場合
過去の販売価格を比較対照価格とする場合、
- 比較対照価格として併記されている商品が品質や性能において販売している商品と同一であること
- 「最近相当期間にわたって販売されていた価格」といえるかどうか
がポイントです。
「最近相当期間にわたって販売されていた価格」といえるかどうかは
①セール開始時点からさかのぼる8週間(商品が発売されていた期間が8週間未満のときは、その期間)において、比較対照価格で販売されていた期間がその商品が販売されていた期間の半分を超える
+
②「比較対照価格で販売されていた期間が通算して2週間以上ある」 OR 「比較対照価格で販売された最後の日から2週間を経過していない」
で判断します。なのでチェックすべきは
- 比較対照価格で販売されていた期間がその商品が販売されていた期間の半分を超えるか
- セール開始日が比較対照価格で販売した最終日から2週間以上経過していないか
- セールしていた期間は2週間以上前ではないか
です。
[su_box title=”チェックポイント” box_color=”#003f66″]
✓比較対照価格として併記している商品が品質や性能において販売している商品と同じものか
✓比較対照価格で販売されていた期間がその商品が販売されていた期間の半分を超えるか
✓セール開始日が比較対照価格で販売した最終日から2週間以上経過していないか
✓セールしていた期間は2週間以上前ではないか
[/su_box]
②他店の販売価格を比較対照価格とする場合
他店の販売価格を比較対照価格とする場合
- 最近時の市価や競争事業者の販売価格よりも高い価格を市価として比較対照価格に用いる
- 商圏が異なり一般消費者が購入する機会のない店舗の販売価格を比較対照価格に用いる
ケースは不当表示にあたるおそれがあります。
また特定の競争事業者の販売価格と比較する場合、実際の販売価格や事業者名を明示することが必要です。
したがってチェックすべきは
- 地域内の事業者の相当数が実際に販売している価格か
- 事実上一般消費者が購入する機会のない店舗の販売価格を引き合いに出していないか
- 特定の競争事業者の販売価格と比較する場合は、その事業者の実際の販売価格及び事業者の名称を明示しているか
です。
[su_box title=”チェックポイント” box_color=”#003f66″]
✓地域内の事業者の相当数が実際に販売している価格か
✓事実上一般消費者が購入する機会のない店舗の販売価格を引き合いに出していないか
✓ 特定の競争事業者の販売価格と比較する場合は、その事業者の実際の販売価格及び事業者の名称を明示しているか[/su_box]
③将来の販売価格を比較対照価格とする場合
将来の販売価格を比較対照価格とするときは、将来の販売価格に十分な根拠がなければ不当表示にあたるおそれがあります。。
「将来における販売価格が十分な根拠がないとき」には
- 実際に販売することのない価格
- ごく短期間のみ当該価格で販売する場合
が該当します。
ですからチェックすべきは将来、相当期間にわたって実際にその価格で販売するかです。
[su_box title=”チェックポイント” box_color=”#003f66″]
✓将来、実際に販売する予定があるか
✓その価格で相当期間にわたって販売するか[/su_box]
④メーカー希望小売価を比較対照価格とする場合
メーカー希望小売価を比較対照価格とする場合、
- 実際に設定された希望小売価格よりも高い価格を比較対照価格に用いる
- 希望小売価格が設定されていないにもかかわらず、任意で決めた価格を希望小売価格として比較対照価格に用いる小売店などが自ら設定した価格を、希望小売価格として比較対照価格に用いる
- 製造業者等が当該商品を取り扱う小売業者の一部に対してのみ呈示した価格を、希望小売価格として比較対照価格に用いる
- 販売する商品と同一ではない商品(中古品等を販売する場合において、新品など当該商品の中古品等ではない商品を含む。)の希望小売価格を比較対照価格に用いる
などのケースで不当表示になるおそれがあります。
したがってチェックすべきはメーカーが当該商品を取り扱う業者全体に”公表”した価格であるかです。
[su_box title=”チェックポイント” box_color=”#003f66″]
✓メーカーにより公表されている価格か
✓一部の小売業者などに対してのみ呈示された価格でないか[/su_box]
⑤他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする場合
他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする場合、
- 会員制の販売方法において非会員価格を比較対照価格に用いる
- 需要のピーク時における販売価格を比較対照価格に用いる
ケースで不当表示になるおそれがあります。
ですから
チェックすべきは以下です。
- 会員制の販売方法において、(料金が高いほうの)非会員価格を比較対照価に用いていないか
- 通常時の販売価格を比較対照価格に用いているか
[su_box title=”チェックポイント” box_color=”#003f66″]
✓会員制の販売方法において、非会員価格を比較対照価に用いていない
✓通常時の販売価格を比較対照価格に用いている[/su_box]
ルールを守って適正広告を
二重価格表示はともすれば消費者に損害を与えかねないため、景品表示法で複雑なガイドラインが設けられています。「売りたい」が先に立ち、ついつい不正をしてしまう気持ちは分からなくもありません。数字をでっちあげるだけなので、コストもかからず簡単です。
しかしながら景品表示法違反のペナルティは、薬機法よりもはるかに厳しく、リスクは計り知れません。ルールをきちんと理解したうえで適切な価格表示をするようにしましょう。
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