景品表示法には課徴金免除規定があります。課徴金納付命令を出されても一定の条件を満たした場合納付を免れるというものです。今回は
- 景品表示法の課徴金免除規定とは
- 課徴金免除規定の考え方
- 免除規定が適用となる要件
などについて平成30年の日産自動車の事例もあわせて解説していきます。
なお情報の信ぴょう性については
- 景品表示法務検定アドバンス(消費者庁、公正取引協議会主催)
- 食品の適正表示推進者(東京都福祉保健局主催)など
を所有する専業薬機ライターが解説しています。ご安心ください。
景品表示法の課徴金免除規定とは|適用要件とともに解説
景品表示法では第三者保護の取り決めから、課徴金の免除規定が設けられています(景表法8条1項ただし書)。免除規定が適用される要件は次のように規定されています。
当該事業者が当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が次の各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき、又はその額が百五十万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であること又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であることを示す表示
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であること又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であることを示す表示(景表法8条1項ただし書)
「次の各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき、又はその額が百五十万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。」と明記されています。
各号とはそれぞれ優良誤認表示、有利誤認表示を指します。つまり
- 「不当表示に該当することを知らず」かつ「知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき」
- 課徴金の金額が150万円未満
のいずれかに該当する場合課徴金納付が免除されるということです。
要件1: 不当表示に関して善意・無過失である
以下の場合には、課徴金は課されないこととなっています。
- 違反事業者が課徴金対象行為をした期間を通じて課徴金対象行為に係る表示が不当表示に該当することを知らず、
- 知らないことにつき「相当の注意」を怠った者でないと認められる場合
第三者保護の観点から違法行為に自ら関与したのでないことが明らかなケースでは、課徴金を徴収できないことが法律上定められているのです。
「不当表示になると知らず、ちゃんと注意もしていたなら、許しましょう」ということですね。
相当の注意とは?
ではここでいう相当の注意とはどんなものなのでしょうか
たとえば以下のような場合相当の注意を払っていると認められます。
- 表示をする際に通常必要とされる程度の注意を払う
ex.販売する商品や、原材料を仕入れるに際、仕入れ先から提供された書類や伝票などにおける記載事項などについてその根拠を確認するなど - 景品表示法に基づく表示の管理体制の整備など必要な措置を講じ、実施している
ex景品表示法の管理措置指針「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」に沿う具体的措置を講じるなど - 公正競争規約を遵守する体制を整え、かつ、実施している
ex.公正競争規約を社員間で共有し、遵守するよう徹底している
公正競争規約とは?
公正競争条約とは景品表示法第31条の規定により、公正取引委員会及び消費者庁長官の認定を受けて各業界が表示や景品類に関する事項について自主的に設定する業界のルールです。
事実と異なったり、誇大な広告は消費者に不利益を与えかねません。そこで、事業者間の公正な競争によって消費者の自主的・合理的な商品選択に役立つよう、各業界がいろいろな商品について消費者の意見を採り入れ、それぞれの業界実態に合わせた自主ルールが公正競争規約です。
たとえば「化粧品の表示に関する公正競争規約施行規則」の15条では
特定用語の使用基準(「安全」、「安心」など安全性を意味する用語、「世界一」、「第一位」、「当社だけ」など優位性を意味する用語など)を定めています。
適用要件2:課徴金の金額が150万円未満
課徴金対象期間において算定した課徴金の金額が150万円未満の場合、課徴金制度の対象とはなりません。(景品表示法8条1項ただし書)。
つまり売上が5,000万円未満の場合、課徴金の対象外です。
適用要件3:不当表示をやめた日から5年間が経過
その他、不当表示をやめた日から5年間が経過した場合も課徴金を課さないこととなっています(景品表示法第12条第7項)
日産自動車の課徴金納付命令が取り消された事例
平成30年12月26日、消費者庁が日産自動車の異議申し立てをうけ前年に発出していた課徴金納付命を取り消した事例があります。
以下、概要を時系列で説明します。
1日産自動車は三菱自動車から相手先商標製品製造(OEM)による供給を受け自動車を販売していた
事の発端は、日産自動車が三菱自動車の軽自動車をOEM販売していたことです。
遅くとも平成28年4月1日から同月20日までの間、日産自動車は、デイズルークスなど軽自動車16商品の軽27商品(以下本件27商品)を一般消費者に販売していました。
2カタログなどの表示が景表法違反(優良誤認)にあたるとして、三菱自動車に課徴金納付命令
日産自動車はカタログや自社サイトにおいて、各商品の燃費性能(以下燃費値)などを国が定めた試験方法に基づき測定された値であるかのように示す表示をしていました。
しかし実際には燃費値はねつ造で、なおかつ国が定めた試験方法とは異なる方法で算出していたのです。消費者庁はこれを不当表示にあたるとし、景表法違反(優良誤認)で三菱自動車動車に約4億8千万円の課徴金納付を命じました。
燃費値のデータは製造元の三菱自動車が日産自動車に提供したものでした。
3データの根拠となる情報を十分に確認しなかったとして日産自動車にも課徴金命令
そして、OEM供給していた三菱自動車に燃費性能の根拠となる情報を十分に確認せず、相当の注意を怠ったとして、消費者庁は同年6月、日産にも景表法違反(優良誤認)で317万円の課徴金納付命令を出しました。
消費者庁の命令に対し日産自動車は「優良誤認表示に当たることを知らないことは相当の注意を怠ったことには当たらず、命令は取り消されるべきだ」と反論。行政不服審査会に審査請求します。
4「優良誤認表示に当たることを知らないことについて相当の注意を怠ったとはいえない」と判断され日産自動車への課徴金命令は取消
審査会は「日産自動車は三菱自動車が異常なデータを用いていたことなどに重大な疑義を持っていたとは認めがたい」などと判断しました。
つまり、日産自動車は三菱自動車側に燃費性能の根拠となる情報を十分に確認はしなかったものの、そのデータ不正を知ることは困難であり、不正なデータを用いていないであろうと認識していた(=相当の注意を払っていた)可能性が高いことを認めたわけですね。
その上で仮に三菱自動車に基礎データの確認を求めた場合でも「2車種の燃費測定に不正が存在し、表示が著しく優良であると示すことになることを知り得たと認めることも困難」とし日産自動車への課徴金納付命令を取り消すこととなりました。、
課徴金を免れるためのポイントはコンプライアンス体制|早め早めの対応を
景、仮に不当表示をしてしまったとしても①違反になると知らず、②知らないことにつき相当の注意を払っている(コンプライアンス体制が十分に整備されている、公正競争規約に沿った表示がなされているなど)と認められた場合は課徴金の納付を命じられません。
消費者保護を目的におく景品表示法には、他にも救済措置が設けられて、自主申告や自主返金で課徴金が減免となるケースがあります(第9条、第9条ただし書、第法10条、11条)。
景品表示法は年々取り締まりが強化されており、近年ではAmazonや楽天、ジャパネットたかたなど大手企業の摘発も相次いでいます。規制内容をキチンと把握し、しかるべき措置を講じることが重要です。
弊社では現在の公正競争規約65業種すべてを網羅しています(公正競争規約は広告審査以外で問題となるケースは少ないものの、弊社は令和4年度の景品表示法務検定の受験のために学習)。まずはお問い合わせください。