InstagramやYouTubeが広がりを見せるなかで今、市場拡大しているマーケティング手法が「インフルエンサー・マーケティング」です。費用対効果が高く、効果測定もしやすいことから導入を検討している事業者も多いことでしょう。しかし、気になるのがその違法性です。
本稿では
「インフルエンサー・マーケティングに取り組みたいけど法律が心配」
「すでにインフルエンサー・マーケティングを始めているけど法規制が気になる」
といった方に向けて
- 国内外のインフルエンサー・マーケティングの法規制
- 日本でインフルエンサー・マーケティングをする際に気をつけるべきポイント
などを紹介します。
なお情報の信ぴょう性については以下のとおりです。
そもそもインフルエンサー・マーケティングとは
インフルエンサー・マーケティングとは、芸能人や有名ブロガーなど影響力がある人物(=インフルエンサー)を企業が活用し消費者の購買行動に影響を与えるマーケティング手法です。
高い効果を得られることで2016年から取り入れる企業が増加しました。近年ではインフルエンサーマーケティング支援を行う事業者も登場し、市場は拡大しています。
その一方で
- 「ステマと同じ」
- 「やらせじゃないのか」
など批判的な見方もあります。
ステマとは…
ステマとはステルスマーケティング(Stealth Marketing)の略称です。宣伝や広告であることを隠し、中立的な立場を装って行われる宣伝活動をいいます。「サクラ」「八百長」「やらせ」などと同義です。
インフルエンサー・マーケティングは日本では合法
そんなインフルエンサー・マーケティングですが、導入するにあたって気になるのが違法性です。インフルエンサー・マーケティングの法規制はどうなっているのでしょうか。アメリカと日本の法規制についてそれぞれ解説していきます。
海外では違法になる可能性が高い
アメリカの米国連邦取引委員会(FTC)は、2009年にネイティブ広告に関する指針を定めた「広告における推奨及び推薦の利用に関するガイド」(Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising)」という指針(以下FTCガイドライン)を発表しています。
インフルエンサーに関するガイドラインではありませんが、インフルエンサー・マーケティングにも適用されると考えてよいでしょう。
FTCガイドラインではネイティブ広告を規制している
FTCガイドラインのなかで、広告主と推奨者の在り方についておおむね次のとおり示されています。
・広告主は、推奨(endorsements)によってなされた誤った宣伝文句あるいは根拠のない宣伝文句に責任を負う。あるいは、広告主と推奨者との重要な結びつき(material connections)を開示しない場合にも責任を負う。
・推奨者と宣伝商品の販売主が提携関係にある場合はその旨を完全に開示されなければならない。たとえば、テレビコマーシャルに登場する推奨者が、広告の中で(販売主とが提携関係にある)専門家もしくは、著名人であると消費者が知りえない場合、広告主は、推奨者と支払や対価の約束があることを明確に目立つ方法で開示しなければならない。
つまり、広告主(販売主)は著名人などと契約を結んで商品をおススメしてもらう場合、契約関係にあることを明示しなければならないということです。
またFTCガイドラインの「QandA」では次のような記載があります。
Q)ある有名なセレブには、ツイッターで何百万人ものフォロワーがいます。彼女のツイートが宣伝商品に言及すると、彼女が広告主から対価をもらえることは多くの人が知っています。彼女は、商品についてツイートしたときに対価を得ていることを開示しなければなりませんか?
A)商品に関する彼女のツイートが、支払を受けた推奨であると彼女のフォロワーが理解できるか否かによります。もし、フォロワーの多くがそのことを知らないのであれば、開示が必要です。この判断は微妙なので、開示することをお勧めします。
Q)自分のホームページのどこか1か所に、「このサイトで私がとりあげる製品の多くは、メーカーから無料で私に提供されたものです」とまとめて開示するのでも足りますか?
A)あなたのサイトを訪れる人は、個々のレビューやビデオを見るだけで、ホームページの開示に関する部分を見ないかもしれません。ですので、1か所の開示では足りません。
要約すると以下の通りです。
・「何百万人ものフォロワーがいる女性=(インフルエンサー)が対価を得て商品についてツイートする場合、対価を得た上でのツイートであることをフォロワーの多くが知らなければ、開示が必要」
・「メーカーから依頼され、商品をホームページで紹介する場合、その旨の表示は1か所では足りない」
アメリカではインフルエンサーに対価を払い広告してもらうインフルエンサーマーケティングを制限していることが分かります。
連邦取引委員会法5条に抵触するおそれ
もちろんFTCガイドラインはあくまでもガイドライン。指針であり、法的拘束力は持ちません。
しかし連邦取引委員会法5条では不公正・欺瞞的な行為又は慣行(Unfair or Deceptive Acts or Practices)を禁止しており、違反に対してはFTCによる民事訴追(差止請求)や行政的排除措置などの措置がとられるおそれがあります。
ガイドライン違反は結果として連邦取引委員会法5条の違反になる可能性があるわけです。
日本では違法とまではいえない
他方、日本では「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」があります。広告表示に関する景品表示法上の適正なあり方を定めたもので、インフルエンサーマーケティングにも当然に適用されます。
インフルエンサーの口コミは問題ないとされている
まず「景品表示法上の問題点」の箇所では消費者による口コミ情報は景品表示法で定義される「表示」には該当せず景品表示法上の問題は生じないとしています。
「 景品表示法上の問題点
口コミサイトに掲載される情報は、一般的には、口コミの対象となる商品・サービスを現
に購入したり利用したりしている消費者や、当該商品・サービスの購入・利用を検討してい
る消費者によって書き込まれていると考えられる。これを前提とすれば、消費者は口コミ情
報の対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、消費者による口コミ情報は
景品表示法で定義される「表示」3には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じる
ことはない。
(引用元:インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項)
つまりインフルエンサーが消費者として口コミを発する分には法的問題は生じません。
ただし優良誤認表示・有利誤認表示にあたる場合は問題になる
ただ文書は「検討事項として想定される表示」の例として
「口コミサイトにおけるサクラ記事など、広告主から報酬を得ていることが明示されないカキコミ等」を挙げています。
つまりインフルエンサーに対価を払って広告させているにもかかわらず、その旨を明示していない場合、検討事項となる=好ましくないということです。
そのうえで、同文書では次のように規定しています。
ただし、商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイト
に口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該
事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るも
のよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表
示法上の不当表示として問題となる。
(引用元:インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項)
すなわち景品表示法第5条の定める
- 優良誤認表示
- 有利誤認表示
に該当する場合は景品表示法上の不当表示として問題になります。
とはいえ現時点ではインフルエンサー・マーケティングやステルスマーケティングを直接的に規制する法律は日本には存在しません。
つまり
インフルエンサー・マーケティングもステルスマーケティングも合法的な手段※です。上記消費者文書の「景品表示法の留意事項」でも以下のとおり示されています。
※ステルスマーケティングは2023年10月1日より違法になります(景品表示法5条3号)
(4) 景品表示法上の留意事項
○ 商品・サービスを供給する事業者が、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第
三者に依頼して掲載させる場合には、当該事業者は、当該口コミ情報の対象となった商品・
サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事
業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認され
ることのないようにする必要がある。
(引用元:インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項)
注目したいのは最後の部分です。
「サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されることのないようにする必要がある」
”必要がある”とするにとどめ、明確に禁止してはいません。注意義務です。
以上のことから
アメリカと異なり、日本では広告主と推奨者との関係性が明示されていないというだけでは違反にはならないと考えられます。
また上記消費者庁の文書において「問題となる事例」として挙げられているのは以下のようなものです。
広告主が、(ブログ事業者を通じて)ブロガーに広告主が供給する商品・サービスを宣
伝するブログ記事を執筆するように依頼し、依頼を受けたブロガーをして、十分な根拠が
ないにもかかわらず、「△□、ついにゲットしました~。しみ、そばかすを予防して、ぷ
るぷるお肌になっちゃいます!気になる方はコチラ」と表示させること
(引用元:インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項)
問題となる事例では「しみ、そばかすを予防して、ぷるぷるお肌に」という好ましい結果がえられたことまで記載されています。
ブロガーが広告主に商品・サービスを宣伝するブログ記事を執筆するように依頼されたとしても単に商品やサービスのことを紹介しているだけでは優良誤認表示には当たらないとする趣旨でしょう。
しかし裏を返せば好ましい結果がえられたことを強調すれば問題になりえるということです。
また、他社の商品・サービスを批判する内容を伴った宣伝は薬機法や不正競争防止法に違反するリスクがあります。
インフルエンサー・マーケティングは違法ではないが信用リスクはある!気をつけるべきポイントは?
インフルエンサーマーケティング自体は現時点では違法ではありません。しかし構造そのものはステルスマーケティングのそれとまったく同じです。ともすれば信頼を落とすことにもなりかねません。では信頼を落とさないためにはどのような点に気をつければいいのでしょうか。
広告主との関係を明示する
インフルエンサーにPRを依頼する場合は、「PR」「広告」などのワードを記載してもらうことが重要です。
広告主の主体が誰であるかを明記し、消費者の側が「これはインフルエンサーが広告主に依頼されて掲載した”広告”なのだ」と認識できれば、批判を浴びるおそれもありません。
広告主との関係を明示してもらうようにしましょう。
ただSNSの場合「#PR」「#広告」など「#(ハッシュタグ)」をつけるだけでは不十分といえます。
なぜならハッシュタグは複数つけられるケースも多く「#PR」としたところで、その他のハッシュタグに埋もれてしまい消費者が気付かない可能性が高いからです。
特にInstagramの場合、複数のハッシュタグをつけて投稿するのが通常となっていますから、注意しなければなりません。
- 「〇〇(企業名)様から商品を頂きました。」
- 「〇〇(企業名)とのタイアップ企画です。」
といった文言を本文にいれるなどし、提携関係があることを分かりやすく明記しましょう。
事実を偽って情報を発信しない
前述のように、企業が特定個人に報酬を支払い、商品の紹介をしてもらうことがそれすなわち優良誤認表示とはなりません。
ですが、事実と異なる情報を発信した場合、優良誤認表示に該当し、景品表示法の処分対象となるおそれがあります。たとえば以下のようなケースです。
- 初めて使うのに「愛用してます」と宣伝する
- 試してもいないのに「気持ちよくて病みつきになりました」とPRする
インフルエンサー・マーケティングも場合によっては違法に!
インフルエンサー・マーケティングそのものは現在のところ違法ではありませんが、やり方によっては景品表示法や不正競争防止法違反になるおそれがありますから、注意が必要です。
そもそもインフルエンサーに肯定的な意見を持っている人ばかりではなく、むしろ「ウザい」「気持ち悪い」「胡散臭い」といった不快感を抱く人も一定数存在することも頭に入れておく必要があります。
なによりインフルエンンサーとの間に何らかのトラブルがあった場合、商品・サービスに対してネガティブなことを発信されないとも限りません。
慎重さが求められます。
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