「特定保健用食品」と「機能性表示食品」「栄養機能食品」はいずれも食品でありながら機能性の表示が可能です。しかしそれぞれ販売するための条件やうたえる機能性の範囲が異なります。違反すれば健康増進法や景品表示法の処分対象となりますから、広告に携わる人は必ずおさえておかなければなりません。
本稿では
- 「特定保健用食品」と「機能性表示食品」「栄養機能食品」の違い
- 標ぼう可能な機能性の範囲
- 広告における注意点など
などを紹介します。情報の信ぴょう性については以下の通りです。
特定保健用食品(トクホ)と機能性表示食品、栄養機能食品
食品は通常、機能性をうたうことができません(明らか食品を除く)。しかし一定の条件を満たした場合機能性の表示が認められるものがあります。それが「特定保健用食品」「機能性表示食品」「栄養機能食品」です。
「特定保健用食品」「機能性表示食品」「栄養機能食品」をあわせて「保健機能食品」と呼びます。保健機能食品を販売するためにはそれぞれ条件を満たさなくてはならず、表現できる効能の範囲も異なります。
保健機能食品制度について
特定保健用食品と機能性表示食品、栄養機能食品の違いについて理解するにははまず「保健機能食品制度」について知っておかなければなりません。
保健機能食品制度は2001年に規格基準や表示基準等を定めた制度
高齢化社会といわれる今日、国民の健康意識、食への関心が高まっています。
生活習慣病等の要因となるのが乱れた食生活です。
例)
- 過剰な栄養摂取
- 偏った食生活
現代は一人ひとりの食生活が多様化し、いろいろな食品がさまざまに流通しています。
そうしたなかでは食品の特性を十分に理解し、消費者自らが正しい判断によりその食品を選択し、適切な摂取に努めることが大切です。
消費者が安心して食品を選ぶためには、適切な情報提供が行われることが欠かせません。
そこで「一定の規格基準、表示基準等を定め、消費者が自らの判断に基づき食品の選択を行うことができるようにすること」を目的に2001年に創設されたのが保健機能食品制度です。
保健機能食品制度では食品を「保健機能食品」と「一般食品」の二つに分類しています。
出典:ヤクルト本社
保健機能食品制度とは、「いわゆる健康食品」のうち、一定の条件を満たした食品を「保健機能食品」と称することを認める制度です。
保健機能食品と一般の食品の違い
- 保健機能食品……機能性や安全性に関する基準を満たした食品。機能性の表示ができる。
- 一般食品……保健機能食品以外の食品。機能性の表示はできない
栄養機能食品とは
栄養機能食品とは国が定める特定の栄養成分(ビタミン・ミネラルなど)の規格基準に適合した食品です。
一日当たりの摂取目安量の中に含まれる量の基準値(上限値と下限値)が、国によってそれぞれの栄養成分ごとに定められています。基準に当てはまっていれば、国へ届け出たり許可申請したりしなくても、該当する栄養成分の機能を規定の表現で示すことが認められます(規格基準型)。
栄養機能食品は食品衛生法に次のように規定されています。
「特定の栄養成分を含むものとして厚生労働大臣が定める基準に従い当該栄養成分の機能の表示をするもの(生鮮食品(鶏卵を除く。)を除く。)」
食品衛生法施行規則第21条第1項第1号シ
栄養機能食品の表示では、以下のように、栄養機能食品であることを表示して、その後に該当の栄養成分の名称を表示します。
栄養機能食品の表示例
「栄養機能食品(ビタミンC)」
「栄養機能食品(ビタミンA)」
栄養機能食品とは
- 国が定めた栄養成分の規格基準に適合した食品
- 届け出も許可も不要(規格基準型)
栄養機能食品は
特定保健用食品(トクホ)とは
特定保健用食品(トクホ)は生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品です。
特定保健用食品は1991年に開始した特定保健用食品制度に基づいた健康食品であり、健康増進法で「食生活において特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の標示をするもの(第26条)」と定義されています。
食生活において特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の標示をするもの
健康増進法第26条
国の許可が必要(個別許可型)
トクホであることを示すには消費者庁長官による個別の許可が必要になります(個別許可型)。
トクホの取得には、消費者庁だけでなく消費者委員会、食品安全委員会の審査も通過しなければなりません。審査には計1年半~2年程度かかることになります。
また審査を受けるにあたって、臨床試験などで科学的な証拠が立証されていることが必要です。
科学的な証拠の立証には、少なくとも6か月程度要します。トクホの取得にはトータルで1年~3年程度(試験~論文投稿~申請)はかかるわけです。
トクホの取得にはトータルで1年~3年程度(試験~論文投稿~申請)必要
- 消費者庁の許可に要する期間:約5か月
- 消費者委員会の審査に要する期間:約6か月
- 食品安全委員会の審査に要する期間:約12か月
- エビデンス確保のための試験などに要する期間:約6か月
莫大なコストがかかる
トクホの許可取得には莫大なコストがかかります。
トクホの許可申請のコストについては公表されていません。もっとも、トクホの許可申請代行会社の料金が30,000~50,000円程度ですので、トクホの申請そのものにはほとんどコストはかからないとみてよいでしょう。
問題はトクホの機能性を立証するための臨床試験にかかるコストです。臨床試験コストは「何名で実施するのか」「試験デザイン(単回摂取or連続摂取」「特殊検査か否か」で増減しますが目安としては次の通りです。
トクホの臨床試験にかかるコスト
有効性ヒト臨床試験費用……1,000万円~9,000万円程度
安全性ヒト臨床試験費用……400万円~900万円程度
つまりトクホの取得には少なく見積もっても1,000万円強、場合によっては数億円かかります。
トクホとは
- 生理的機能に影響を与える保健機能成分を含む食品
- 消費者庁長官による個別の許可が必要
- 取得には膨大な時間とコストがかかる
機能性表示食品とは
機能性表示食品とは科学的根拠に基づいた機能性を事業者の責任において表示できる食品です。
機能性表示食品制度によってスタートした
1991年の保健機能食品制度の開始以降、ながらく保健機能食品には「栄養機能食品」と「特定保健用食品(トクホ)」しかなく、機能性を表示する手段は特定保健用食品(トクホ)一択でした。
トクホを取得すれば「国によって許可を受けた効能効果を表示できる」という大きなメリットを得られます。
一方で、トクホの許可取得には次のようなデメリットもあります。
- 取得には莫大なコストと時間がかかる
- 許可がおりないこともある
そのため特定保健用食品制度は、資金力のない中小企業にとっては活用しにくい制度だったのです。
そこで食品表示法の施行と共に2015年4月から始まったのが「機能性表示食品制度」です。機能性表示食品制度によって、保健機能食品に新たに「機能性表示食品」が加わりました。
機能性表示食品も特定の機能性を表示できる点では特定保健用食品(トクホ)と共通です。
- 糖の吸収を穏やかにします
- お腹の調子を整えます
消費者庁の許可は不要(販売前届け出制度)
消費者庁の許可がなければ機能性を表示できない特定保健用食品(トクホ)に対して、機能性表示食品は消費者庁の許可は要らず、事前に消費者庁長官に必要事項(食品の安全性と機能性に関する科学的根拠など)を提出することで販売できるメリットがあります(販売前届け出制度)。
機能性表示食品はコストもおさえられる
機能性表示食品はコストもおさえられます。
機能性表示食品の場合、機能性の立証方法は「臨床試験」と「研究レビュー」の2通りがあります。
- 臨床試験(2条定義、3条2項及び18条2項横断的義務表示)
最終製品を用いた臨床試験で立証する方法です。臨床試験はヒトを対象として、特定の成分又は食品の摂取が健康状態などに及ぼす影響について評価します。 - 研究レビュー(SR)(2条定義、3条2項及び18条2項横断的義務表示)
最終製品又は機能性関与成分に関する既存の論文をとりまとめる方法です。システマティックレビュー(SR)と呼ばれます。査読付きの研究論文で機能性が確認されていること、人を対象とした臨床試験や観察研究で、機能性が確認されていることなど細かな条件があります。
必要コストは臨床試験をおこなうのか、研究レビュー(SR)をするのかによって変わります。
研究レビュー(SR)の場合、かかる費用は文献や論文調査、およびそれらを取りまとめる費用のみとなります。
ヒト臨床試験をおこなう場合のコストはおおむね次の通りです(要求されるエビデンスのレベルがトクホと異なるため、費用も少なくなります)。
機能性表示食品の臨床試験を行う場合のコスト
- 有効性ヒト臨床試験に500万円~3,000万円程度
- 安全性ヒト臨床試験……約300万円~400万円程度
機能性表示食品とは
- 科学的根拠に基づいた機能性を事業者の責任において表示できる食品
- 事前に届け出をすれば許可は不要(販売前届け出型)
- コストもおさえられる
栄養機能食品と特定保健用食品と機能性表示食品、それぞれどこまで標ぼうできる?
ご説明のように栄養機能食品、特定保健用食品、機能食品表示食品は
- 食品衛生法
- 健康増進法
に基づきます。よってこれらの法律の規制を受けるわけですが、栄養機能食品、特定保健用食品、機能食品表示食品ではルールが異なります。
ではそれぞれどこまでが認められ、どこからが不可となるのでしょうか。
栄養機能食品
まずは栄養機能食品です。
栄養機能食品では規格に定められた以下の栄養成分の効果を表示できます。
- 脂 肪 酸(1種類)
n-3系脂肪酸
- ミネラル類(6種類)
亜鉛、カリウム(錠剤、カプセル剤等の形状の製品を除く)、カルシウム、鉄、銅、マグネシウム
- ビタミン類(13種類)
ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸
栄養機能食品のOK表現(読みかえや省略は不可)
【栄養機能食品のOK表現】
- 「ビタミンCは、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素です」
- 「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」など
内容の主旨が同じであっても、定められた栄養成分の機能に変化を加えたり、省略したりすることは認められません。ただし、以下の場合には、まとめて記載することが可能です。
- 一つの食品で、複数の栄養成分の栄養機能表示が同一の場合
『ナイアシン、ビオチン及びビタミンB2は、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。 - 一つの栄養成分に、二つ以上の栄養機能表示がある場合
ビタミンAは、夜間の視力維持を助けるとともに、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。
栄養機能食品のNG表現
規格に定められた栄養成分以外の成分の機能表示や、「疲れ目の方に」などと特定の保健の用途は表示できません。
【栄養機能食品のNG表現】
- 規格に定められた栄養成分以外の成分の機能表示
- 「ダイエットに」
- 「肩こりに」
- 「疲れ目の方に」など
注意喚起表示も必要
また栄養機能食品には注意喚起表示も義務付けられています。
必要表示事項の文字は、すべて8ポイント以上の大きさで表示します(表示可能面積がおおむね150㎠以下の場合は、5.5ポイント以上の大きさの文字で表示することができます)
- 栄養機能食品である旨及び当該栄養成分の表示
- 一日当たりの摂取目安量
- 栄養成分の量及び熱量(栄養成分表示)
- 摂取の方法
- 摂取する上での注意事項
- バランスの取れた食生活の普及啓発を図る文言
- 消費者庁長官の個別の審査を受けたものではない旨
- 一日当たりの摂取目安量に含まれる機能に関する表示を行っている栄養成分の量が、栄養素等表示基準値に占める割合
- 栄養素等表示基準値の対象年齢及び基準熱量に関する文言
- 調理又は保存の方法に関し特に注意を必要とするものは、当該注意事項
- 特定の対象者に対し注意を必要とするものにあっては、当該注意事項
- 保存方法(※生鮮食品のみ)
- その他(※生鮮食品のみ)
特定保健用食品(トクホ)
特定保健用食品でもその商品に認められた許可表示内容の範囲しかうたえません(よみかえは認められます)。認められた許可表示内容の範囲を逸脱し、医薬品的な効果効能等を述べると「誇大表示の禁止(健康増進法第32条)」にあたりNGとなります。
特定保健用食品のOK表現(読みかえも可能)
特定保健用食品で認められるのは10の許可表現の範囲内のみです。
[1] おなかの調子を整える食品
[2] 血圧が高めの方に適する食品
[3] コレステロールが高めの方に適する食品
[4] 血糖値が気になる方に適する食品
[5] ミネラルの吸収を助ける食品
[6] 食後の血中の中性脂肪を抑える食品
[7] 虫歯の原因になりにくい食品
[8] 歯の健康維持に役立つ食品
[9] 体脂肪がつきにくい食品
[10]骨の健康が気になる方に適する食品
【トクホのOK表現】
- 「糖の吸収を穏やかにする◇◇◇配合」
- 「食後の血糖値が気になる方に」
- 「◇◇◇の働きにより、血圧が高めの方の健康をサポートします」
- 「血圧が高めの方に適した食品です」
- 「脂肪の吸収を抑えるのを助ける」など
特定保健用食品のNG表現
トクホは読みかえや省略は認められますが、消費者に誤認を与えるような表示は認められません。
たとえば「食後の血糖値が気になる方に」という許可表示の食品について、
「食後の血糖値が高い方に」や「食後の血糖値を低下させる」等と表示することは、許可された保健の用途を超える効果があるかのような誤認を与えるおそれがあるため認められません。
また「食後」という文言を省略して、単に「血糖値が気になる方に」と表示すると、食事によらない血糖値に対する保健の用途に適しているものと誤認を与えるおそれがあるため同様に不可です。
【トクホのNG表現】
- 「食後の血糖値が高い方に」
- 「食後の血糖値を低下させる
- 「血糖値が気になる方に」
- 「血圧降下作用がある◇◇◇を含んだ食品です」
- 「血圧の高い方におすすめです」
- 「血圧への作用が確認されました」
- 「体脂肪が高めの方に適しています」
- 「脂肪の吸収を抑える」
- 「本品は脂肪の吸収を抑えます」など
機能性表示食品
機能性表示食品です。
機能性表示食品のOK表現(よみかえが可能)
機能性表示食品は届け出制資料に基づいた機能の範囲内を標ぼう可能です。届け出資料に基づいた機能の範囲内であれば、読みかえや省略、追加説明も認められます。
【機能性表示食品のOK表現】
容易に測定可能な体調の指標の維持に適するまたは改善に役立つ旨の表現
- 「血圧が高めの方に」
- 「体に脂肪がつきにくい」
- 「中性脂肪を低下させる」など
身体の生理機能、組織機能の良好な維持に適するまたは改善に役立つ旨の表現
- 「目のピント調節機能改善」
- 「目の疲労感の緩和」
- 「糖の吸収を抑えます」など
その他身体状態を本人が自覚でき、一時的な体調の変化(継続的、慢性的でないもの)の改善に役立つ旨 の表現
- 「糖の吸収を穏やかにします」
- 「食後の血糖値が気になる方に適しています。」
- 「疲れ目をサポート」など
機能性表示食品のNG表現
ご覧の通り、機能性表示食品は薬機法ではNGとなるような表現でも認められるケースがあります。
しかしもとより機能性表示食品制度は「消費者の誤認を招かない、自主的かつ合理的な商品選択に資する表示」を目的とした制度です。よって以下の表現は認められません。
【機能性表示食品のNG表現】
・「診断」「予防」「治療」「処置」など医学的な表現や、疾病の治療効果や予防効果を暗示させる表現
- 「糖尿病の人に」
- 「高血圧の人に」
- 「心臓病の疑いがあるあなたへ」
- 「花粉症が治ります」
- 「風邪の予防に」など
・健康の維持・増進の範囲を超えた、意図的な健康の増強を主張する表現
- 「肉体改造」
- 「増毛」
- 「美白」など
・科学的根拠に基づき説明されていない機能性に関する表現
- 限られた免疫指標のデータを用いて、身体全体の免疫に関する機能があると誤解を招く表現
- 抗体や補体、in vitro試験やin vivo試験で説明された根拠のみに基づいた表現など
・その他(優良誤認表示、誤認を招く読みかえや省略、届け出成分以外の成分の強調表示など)
- 他の商品と比較して著しく優良であるような表現(「×業界最高水準の○○配合」など)
- 消費者庁長官に届け出た機能性関与成分以外の成分を強調する用語(「○○たっぷり」「△△強化」など)
- 消費者庁長官の評価、許可等を受けたものと誤認させるような用語(「消費者許可商品」「許可所得」「国の認可」など)
違いを把握し実務に活かそう
特定保健用食品や機能性表示食品、栄養機能食品では薬機法ではアウトとなる表現も認められることがあります。それぞれの違いや標榜できる範囲を確実に把握しておけば強力な武器となるはずです。ただし実務では景表法や不正競争防止法なども関わってきます。周辺法規への配慮を忘れないようにしましょう。
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参考元:
栄養機能食品とは|厚生労働省
機能性表示食品制度の概要と現状|厚生労働省
機能性表示食品の機能表現について|公益社団法人 日本健康・栄養食品協会