法律上認められない表現を「口コミ」「購入者の声」などとして掲示し、傍に「効果には個人差があります」「あくまでも個人の主観です。効果を保証するものではありません。」といった但し書き(打消し表示)を付しているケースをよく見かけます。打消し表示をつければ何を書いても問題ないのでしょうか。
「景品表示法務検定」のアドバンスクラスを取得済(合格者番号APR22000 32)の筆者が
健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について
などに基づきが解説していきます。
打消し表示をつけても法規制の対象となる
「個人の感想であり効果 効能を示すものではありません。」「効果には個人差があります。」健康食品の広告でよく見かける注意書きです。
商品やサービスについて説明する際、その内容に例外がある場合に表示される注釈を「打消し表示」といいます。
化粧品や健康食品で認められた範囲を逸脱した表現を「口コミ」として掲示し、傍に「すべての人に効果が表れるわけではありません」「使用者の感想です。」などの打消し表示をしている広告は非常に多いです。
残念ながら打消し表示をつければ効果効能や誇大表現を用いてもOKとはなりません。
打消し表示については媒体や広告の種類ごとに
- 文字の大きさ
- 本文とのバランス
- 配置箇所
- 背景
など様々な制約があり。ルールに従って記載しなければなりません。
口コミにおける打消し表示の考え方については「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」の「第4 体験談を用いる場合の打消し表示について」や「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」が参考になります。
「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」は「第4 体験談を用いる場合の打消し表示について」において次のように規定しています。
打消し表示の実態調査結果から、実際に商品を摂取した者の体験談を見た一般消費者は「『大体の人』が効果、性能を得られる」という認識を抱き、「個人の感想です。効果には個人差があります」「個人の感想です。効果を保証するものではありません」といった打消し表示に気付いたとしても、体験談から受ける「『大体の人』が効果、性能を得られる」という認識が変容することはほとんどないと考えられる。
打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点
打消し表示があっても消費者が体験談から受ける認識は変わることはほとんどないと考えられるため、効果効能を保証する旨の体験談は打消し表示を付しても認められないということです。
そのうえで以下のように続けています。
実際には、商品を使用しても効果、性能等を全く得 られない者が相当数存在するにもかかわらず、商品の効果、性能等があっ たという体験談を表示した場合、打消し表示が明瞭に記載されていたとしても、一般消費者は大体の人が何らかの効果、性能等を得られるという認識を抱くと考えられるので、商品・サービスの内容について実際のもの等 よりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるときは、景品表示法上 問題となるおそれがある。
打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」
また「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」では「ウ アンケートやモニター調査等の使用方法が不適切な表示」において
「個人の感想です」、「効果を保証するものではありません」等の表示をしたとしても、虚偽誇大表示等に当たるか否かの判断に影響を与えるものではない」
健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について
としています。
以上からすると次のように解釈できます。
打消し表示が明瞭に記載されても、本文に効果効能を得られる旨が掲示されていれば一般消費者は(口コミ内容ほどの効果は得られないにしても)何らかの効果は得られるだろうという認識を抱くと考えられる。
よって口コミの本文が商品・サービスの内容について実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるような場合は、景品表示法上 問題となるおそれがある。
打ち消し表示をしていたが摘発された事例
打消し表示が一般消費者が対象表示から受ける商品の効果に関する認識を打ち消すものではない、とみなされた事例についてみていきましょう。
TSUTAYA に対する措置命令 (2018/5/30)
自社ページにおいて「動画見放題プランについて、「動画見放題 月額933円(税抜) 30日間無料お試し」と記載し、その背景に動画のイメージ画像を掲載し、「人気ランキング」、「近日リリース」などと表示して、あたかも、動画見放題プランを契約すれば、背景に掲載された動画や、「人気ランキング」及び「近日リリース」として掲載される人気の動画や「新作」と称するリリースカテゴリの動画など、TSUTAYA TVにおいて配信する動画が見放題となるかのように示す表示をしていた。
しかし実際には全ての動画が見放題ではなかった。
見放題対象外の動画もあることの打消し表示を記載していたがページ下部「よくある質問」内の「動画見放題は新作も見られますか」をクリックしないと表示されないものであり、一般消費者が容易に確認できないとみなされた。
AOKIに対する措置命令 2012/7/26
TVCMにおいて「スーツ・コート・ジャケット全品半額」と表示していたが実際には半額になるのは一定の価格以上のもののみであった。
上記強調表示と同じ画面下部に「スーツ・コートは31,500円以上、ジャケットは16800円以上が対象商品となります」との打消し表示をしていたが「スーツ・コート・ジャケット全品半額」との音声・表示による強調表示からして、当該記載は、一般消費者が対象表示から受ける商品の効果に関する認識を打ち消すものではない、とみなされた。
ビジョンズに対する措置命令(2021/6/22)
株式会社ビジョンズはプルモア マッサージ&モイストボディクリーム」と称する商品について
ウェブサイト上で「ついに…部分痩せが可能に」「女の格を上げるのは塗るだけダイエット?!」、「ダイエットにも美容にもこれ1本!」及び「痩身効果 ホスファチジコリン ※脂肪溶解注射のメイン成分」等と、とおり表示することにより、あたかも、本件商品を身体の部位に塗布するだけで、成分の作用により当該部位に短期間で著しい痩身効果が得られるかのように示す表示をしていた。
消費者庁が表示の根拠資料の提出を求めたところ、ビジョンズから資料は提出されたものの、表示の裏付けとなる合理的な根拠とは認めなかった。
「※掲載しているお声は個人の感想であり、実感には個人差がございます」「※マッサージの効果による」などと打消し表示を行っていたが、効果に関する認識を打ち消すものではないとして、その無効も判断した。
ビジョンズは2023年2月8日に159万円の課徴金納付命令を受けています。
株式会社トラストに対する措置命令 2019/9/20
ヴィーナスカップと称する下着について「人口国学に基づいた設計により履くだけでダイエットを実現!」「毎日履くだけで2週間でー10cm⁉」などと表示しあたかも着用するだけで著しい痩身効果が得られるかのように表示していた。
またヴィーナスウォークと称する下着「いま業界で話題沸騰中の加圧式脂肪燃焼ソックス」「自宅で履くだけで常時トレーニング状態⁉」としあたかも着用するだけで著しい脚痩せ効果が得られるかのように表示していた。
消費者庁が表示の根拠資料の提出を求めたところ、トラストから資料は提出されたものの、表示の裏付けとなる合理的な根拠とは認めなかった。痩身効果の記載箇所に「※効果の感じ方には個人差があります。効果効能を保証するものではありません。」等と打消し表示をしていたが、当該記載は、一般消費者が対象表示から受ける商品の効果に関する認識を打ち消すものではない、とみなされた。
株式会社ビーボ に対する措置命令 (2019/3/29)
株式会社ビーボは、「ベルタ酵素ドリンク」と称する食品について ウェブサイトなどで細身の腹部を露出した 写真及び本件商品の容器包装の写真と共に、「本気でダイエッ トなら ベルタ酵素ドリンク99%が、痩せています」「食べ たい!でも太りたくない!そんなあなたにオススメ!」等と記 載することにより、あたかも、本件商品を摂取するだけで、本 件商品に含まれる成分の作用により、容易に痩身効果が得られ るかのように示す表示をしていた。
消費者庁が、表示の根拠資料の提出を求めたところ、ビーボから資料は提出されたものの、表示の裏付けとなる合理的な根拠とは認めなかった。ビーボ同社に対し、期間を定めて、当該表示の裏付け となる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社 は、当該期間内に表示に係る裏付けとする資料を提出したが、 当該資料は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すもの であるとは認められないものであった。
痩身効果の記載箇所に「※体験者の減量数値はN21を統計処理した結果、確率的に可能な範囲ですが、100%の結果を保証するものではありません」等と打消し表示をしていたが、当該記載は、一般消費者が対象表示から受ける商品の効果に関する認識を打ち消すものではない、とみなされた。
打消し表示でいい逃れることはできない
打消し表示をつけても法規制の対象になります。そもそも打消し表示をつければ通るならば薬機法や景品表示法の意味がありませんからね。誤認されがちなポイントですから注意が必要です。
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