「○○医師がおススメしている」「○○病院も認めた」などの化粧品広告をよくみかけます。しかし薬機法(薬事法)では、化粧品広告における医薬関係者等による推せん表現を制限しています。今回は化粧品や医薬部外品の広告における医師等の推せん表現について解説していきます。健康食品や雑貨(雑品)の広告における考え方や権威付けのテクニックについても解説していますので参考にしてください。
情報の信ぴょう性については
- 日本でただ一人消費者庁に公的文書の誤りを指摘・改善させた実績
- 消費者庁及び公正取引協議会主催「景品表示法務検定」アドバンス(合格者番号APR22000 32)
- ハウス食品、エーザイ、NTTDoCoMo、徳間書店など上場企業との取引実績多数
- 東京都福祉保健局主催「食品の適正表示推進者」
- 民間企業主催の薬事法関連資格(薬事法管理者資格、コスメ薬事法管理者資格、薬機法・医療法遵守認証広告代理店、美容広告管理者など)
- わかさ生活に薬機法広告の専門家としてインタビューを受ける
をもつ専業薬機ライターが解説します。
医療関係者の推薦は認められない
医療関係者の推薦が認められない理由は、薬機法第66条の「誇大広告の禁止」の規定にあります。
誇大広告の禁止
1何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又
は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告
し、記述し、又は流布してはならない。
薬機法第66条
誇大広告の禁止は、嘘や大げさな表現で消費者を騙してはいけませんよというものです。
条文は以下のように続きます。
2医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
薬機法第66条
「医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布すること」は前項に該当するとしています。
医師などが保証したものと誤解されるおそれのある広告は誇大広告に該当するということです。
さらに厚生労働省が医薬品や医療機器に関する取り締まりの際の基準として各地方自治体の長にあてて出している「医薬品等適正広告基準(通称適正広告ガイドライン)」というものがあります。
そのなかで以下のように記載されています。
医薬関係者等の推せん
医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効
能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を
含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告
を行ってはならない。 (医薬品等適正広告基準第4の10)
医薬品等適正広告基準
分解すると次のようになります。
- 主体:医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体
が - 禁止行為:指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない
なぜ制限されている?
医薬関係者等の推せん表現が制限されている理由は、一般消費者に与える影響が大きいからです。
影響力のある人が推せんする商品・サービスの効果や機能に対して、人々は過度な期待を抱くことがあります。
例
- 芸能人の○○が愛用している商品だから効くに違いない
- インフルエンサーの△△がおススメしてるサービスだから絶対にいいもののはずだ
そのために推せんが事実であっても不可とされています。虚偽の場合、別の罰則もありますので注意が必要です。
国家資格者や教授、大学・有名人の推薦もNG
主体が医薬関係者だけでなく「理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体」も含まれる点にも留意しなければなりません。
ここで問題となるのはその人物(団体)の推薦行為が一般人に与える影響の大きさです。
したがって、ジャンルにおける専門家といえる
- 国家資格者
- 大学教授
- 研究者
- 科学者
も該当すると考えられます。
なお2017年の医療品等適正広告基準の改正で
- 薬局
- 学会
も追加されています。
「監修」「公認」「指定」「愛用」「気に入っている」も認められない
さらに注目すべきが推薦だけでなく、
- 「公認」
- 「指定」
- 「指導」
- 「選用」
もNGとなっている点です。
- 認めた
- 監修
- 共同開発
- 愛用している
- 使っている
といった表現も認められません。
NG例
たとえば以下の表現はすべて不可となります。
- ◯◯病院公認
- ◯◯医師指定
- ○○大学監修
- ○○病院共同開発
- あのカリスマ美容師も認めた
- ◯◯医師が愛用
- ◯◯病院推薦
- 皮膚科医の私もオススメ
- 美容師の私もおススメ
2023年10月1日からスタートしたステルスマーケティング規制については、こちらで詳しく解説しています。
白衣を着た物の推薦は
でははっきりと医薬関係者であると表記はしていないものの、医師のような恰好をしている人物を登場させる場合はどうなるのでしょうか。
例
- 白衣を着ている
- 聴診器を首からぶら下げている
医師のような恰好の人物を登場させても、それがすなわち医薬関係者の推薦に該当するとはみなされません。
日本化粧品連合会が出している「化粧品等の適正広告ガイドライン(2020年版)」は「E14.0医師等のスタイル(白衣等)での化粧品等の広告の禁止の原則」で次のように定めています。
E14.0 医師等のスタイル(白衣等)での化粧品等の広告の禁止の原則
「医師等のスタイル(白衣等)の人が、化粧品等の広告中に登場すること自体は直ちに医薬関
係者の推せんに該当するわけではないが、医薬関係者との誤認を与えないようにすること。
化粧品等の適正広告ガイドライン【2020年版】
つまり、医薬関係者との誤認を与えないようにすれば、医師風の恰好をした人物を登場させても問題ないということになります。
では医薬関係者との誤認を与えないようにするには具体的にどうすればいいのでしょうか。
製品の販売会社の従業員が白衣を着て登場するのは可
続く「E14.1製品の研究者が白衣等のスタイルで登場する広告について」で以下のように定めています。
「製品の研究者が白衣等のスタイルで登場する広告について
化粧品等の製品の研究者が白衣等の医師等であるかの誤認性のあるスタイルで登場する広告を行うときは、その製品の製造販売業の従業員であることが判る説明を事実に基づき明記した場合に限り、本ガイドラインE13 医師等のスタイルでの広告についてに該当しないものとする。なお、事実であっても「医学博士、M.D.、博士、Ph.D.」等の医薬関係者を暗示する肩書きは併記しないこと。」
医薬関係者との誤認を与えないようにするには、白衣等を着た人物が、医師等ではなく製品の販売会社の従業員であることが容易に判断できる説明を併記することが求められます。
たとえば、
- 白衣等のスタイルをした人物写真の下に「○○社(製品販売会社)従業員○○(名前)」と記載する
- 文中に製品の販売会社の従業員であると明記する
などが考えられます。
ただし、製品の販売会社の従業員であることが、客観的にかつ容易にわかるように表記しなければなりません。
つまり次のようなケースではNGとなる恐れがあります
- 文字のサイズが小さい
- 紛らわしい表記をしている
たとえば、以下のようなものは認められません。
- 「薬学の知識に詳しい○○社従業員」
- 「薬剤○○アドバイザー資格所有の社員○○さん」
なんとか良いものに見せを付けたい…権威付け表現のテクニックを紹介
とはいえ、「どうにかして商品良いものに見せたい」といった場合もあるでしょう。そこで次に法的にOKな権威付けのテクニックを紹介します。
テクニック1:医薬品的な効能効果にあたらない表現を使う
化粧品や医薬部外品について医師などの推せんが禁止されているのは、その商品に医薬品的な効果効能があるとの誤解を消費者に与えないようにするためです。
つまり裏を返せば、医薬品的な効果効能にあたらない表現なら、医師などの写真と共に掲示しても問題ないことになります。
医薬品な効果効能にあたらない表現とは
- 栄養補給
- 健康維持
- 美容
- 生体を構成する栄養素について、構成成分であることを示す
の範囲内の表現です。
また一般論の言及にとどまっていれば、医薬品的な効果効能を標榜しているとはみなされません。
OK
- 美容師の写真とともに「ダイエットのために食事制限をしていると髪にもよくありません。この○○(商品名)は髪にアミノ酸を与え、つややかな、くし通りの良い髪へ導いてくれます。」
「食事制限をしていると髪にもよくない」という一般論を掲げ、商品が「つややかでくし通りの良い髪へ導く」という美容効果を述べるにとどめている
- 医師の写真とともに、「日本人はマグネシウム不足しがちです。この○○(商品名)を摂取すれば一日分のマグネシウムを補えます。」
「日本人はマグネシウム不足しがち」という一般論を掲げ、商品を摂取することで「一日分のマグネシウムを補える」という栄養補給効果を述べるにとどめている
NG
- 医師の写真とともに「○○(成分名)には肌のターンオーバーを促し、肝機能を向上させる効果があると近年の研究で判明。この商品は○○が豊富に含まれるので、お酒好きな人に大変おすすめです。」と記載
肝機能を向上させるという医薬品な効果効能を示している
テクニック2:肩書をいい替える
医師等の推せんが規制されているのは、消費者へ与える影響力が大きいからです。推薦行為そのものを禁止しているわけではありません。
たとえば、幼い子供や、そこらへんのアフィリエイターが「このシャンプー、スゴイいいですよ!」といっても聞き流しますよね。
一方、美容師が「○○のシャンプースゴイおススメで私も使ってるんですよぉ~」というと、なんだか真実味が感じられます。
推せん者の肩書をいいかえることで医師等の推せん表現の規定に触れることなく訴求可能です。
OK
- 美容師→美容のプロ、美容家、ヘアメイクアップアーティスト
- 皮膚科→皮膚の専門家
テクニック3:商品に触れない
商品とは直接関係のないものへの言及であれば、医師が登場しても推薦表現があっても問題となりません。
- この製品は大変気に入っています(商品そのもののを推薦している)
- ○○会社とは長年の付き合いさせていただいております(商品そのものは推薦していない)
事実であることが前提
もちろん適法となるのは表記内容が事実であることが前提です。表記内容が虚偽の場合、虚偽広告として薬機法違反や景品表示法の優良誤認にあたります。
健康食品は医師の推薦もOK|
健康食品や雑品に関しては、医師の登場も推薦も認められます。
TVCMなどで医師が登場し健康食品を推薦しているシーンをよく見かけますが、推薦行為そのものは問題ないということです。もちろん医薬品的な効果をうたえば医師であるか否かにかかわらずNGです。別の問題が生じます。