今アツい広告手法のひとつがYouTubeのストリーミング広告でしょう。費用対効果が高く、セグメント配信も可能、消費者の視聴時間そのものも増えています。企業側にとってはメリットの多いYouTube広告ですが、過剰な表現を用いているものも散見されます。
こうした広告は薬機法や景品表示法などにおいて問題とはならないのでしょうか。
本稿では「YouTube広告配信を検討している」「すでにYouTube広告配信をしている」という企業向けに
- YouTube広告が法律上問題となるケースとその基準
- 違反した場合に企業にかかるリスク
などを紹介します。
YouTube広告が法律に抵触するケースは?
YouTube広告が法律上問題となるのはどのような場合なのでしょうか。
- 薬機法
- 景品表示法
- 健康増進法
それぞれについて解説していきます。
薬機法上問題となるケース
医薬品的な効果効能を標ぼうしている
薬機法では医薬品でないものが医薬品的な効果効能を標ぼうすることを禁じています(未承認医薬品広告の禁止)。
医薬品的な効果効能にあたるものとは大きく以下です。
- 病気の治療・予防を目的とする効能効果の標榜
- 特定部位の改善、増強効果の表現
- 身体の構造・機能に作用する標榜
したがって
- 「シミが消える」
- 「ニキビが治る」
- 「便秘解消」
- 「脂肪燃焼」
などは認められません。
「長年悩んでいた宿便がどっさり」「脂肪とさよなら」などぼかした表現を用いているケースもありますが、医薬品的な効果効能を想起させるとNGです。
過剰(誇大)な表現を用いている
薬機法はその第68条で誇大広告を禁止しています。ですから過剰(誇大)な表現を用いている場合も薬機法に抵触するおそれがあります。
たとえば
- 「たった1週間でー10キロ!」
- 「毛がボーボーに!」
など、大げさな表現や誇張表現は認められません。また誇大広告の禁止は実際よりも良いものであるとの誤認を消費者に与えないようにするための規定ですから以下のものも不可です。
- 医師などによる推薦表現
- 「強力」「強い」などの表現
- 「業界初」「No.1」など最上級の表現
薬機法に抵触しないためには、医薬品的な効果効能、誇大表現にあたらない表現をする必要があります。
例)冷え症改善(NG)→巡るチカラを高める
いいかえのテクニックや具体例については他の記事で解説しています。
景品表示法上問題となるケース
実際のものよりも優れているかのような表示をしている
景品表示法では第5条で不当表示(優良誤認表示・有利誤認表示)の禁止を規定しています。実際のもよりも著しく優れているかのように誤認させると景品表示法に抵触するおそれがあります。
優良誤認表示は「商品・サービス」について、有利誤認表示は「取引条件」について規制する条項です。
YouTube広告で多く見られる次のような表示は景品表示法上問題となる可能性があります。
- 実際にはそうでないのに「売上○○個突破!!」「3秒に1人が入会している」と標ぼう(優良誤認表示)
- 「有効成分の配合量が他社商品の2倍」としているが実際には他社と同程度の配合量(有利誤認表示)
ただし広告の主体が事業者にない場合適用対象外
しかし、YouTube広告の場合は不当表示があったとしてもそれすなわち景品表示法の規制対象とはなりません。
景品表示法はその基本の考え方を以下のとおりに規定しています。
「景品類の提供若しくは自己の供給する商品又は役務についての一般消費者向けの表示をする事業者に対して必要な措置を講じることを求めるもの」
つまり景品表示法は事業者を罰する法律で、広告の主体が誰であるかが問題になるわけです。
販売業者自らが動画広告を作成し配信していれば違反となります。しかしアフィリエイターのような第三者が広告の主体であれば規制の対象外です。
事業者が広告作成にかかわっている場合はアウト
景品表示法の指針を示した「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針 (平成26年11月14日内閣府告示第276号)」では次のように定めています。
「なお、自己の供給する商品又は役務について一般消費者に対する表示を行っていな
い事業者(広告媒体事業者等)であっても、例えば、当該事業者が、商品又は役務を一
般消費者に供給している他の事業者と共同して商品又は役務を一般消費者に供給して
いると認められる場合は、景品表示法の適用を受けることから、このような場合には、
景品表示法第 26 条第1項の規定に基づき必要な措置を講じることが求められることに
留意しなければならない。」
引用元:事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針 (平成26年11月14日内閣府告示第276号)
したがってアフィリエイターのような第三者が広告を流している場合でも販売業者が広告作成にかかわっている場合規制の対象となります。
景品表示法の規制対象の考え方はこちらの記事で詳しく解説しています。
健康増進法上問題となるケース
過剰(誇大)な表現を用いている
改正健康増進法はその第32条2で誇大広告を禁止しています。健康増進法の場合は過剰(誇大)な表現を使えば即アウトです。たとえば
- 「一瞬で○○改善」
- 「私史上最高の○○」
などは認められません。
景品表示法における白黒の判断基準は、広告の主体がYouTuberと広告主のどちら側にあるかです。その点健康増進法の誇大広告の禁止では次のとおり定められています。
「何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他厚生労働省令で定める事項(以下「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない(第32条2)」
注目すべきは主語が「何人も」となっている点です。
つまり規制対象は当該食品等の製造業者、広告主、販売業者等に限定されるものではなく、メディア(webサイト)や、アフィリエイターなどにも及びます。これを「媒体責任」といいます。
この媒体責任の考え方からすると、広告の主体がYouTuberと広告主のどちらにある場合でも健康増進法上は広告主、YouTuberともに違反になると考えられます。
なお健康増進法の対象となるのは食品です。健康器具などは規制対象外となります。
違反時のリスク
薬機法のリスク
- 措置命令(広告差し止め)
- 2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金(または併科)
- 売上額 × 4.5%の課徴金(令和3年8月3日より)
措置命令(広告差し止め)
薬機法に違反した場合、行政処分として広告差し止め命令が下されることがあります。
2年以下の懲役または200万円以下の罰金(または併科)
医薬品でないものを医薬品的な効果効能を標ぼうした場合、未承認医薬品の広告(薬機法第68条)で「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金(または併科)」に処せられることがあります。
誇大な表現を用いた場合は誇大広告(66条)で同じく「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金(または併科)」に処せられることがあります。
売上額 × 4.5%の課徴金(令和3年8月3日より)
誇大広告については、2019年度の薬機法改正で2021年8月3日から課徴金制度がスタートすることが決定しています。「違反を行っていた期間中における対象商品の売上額」 × 4.5%を納めなくてはなりません。薬機法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
景品表示法
- 措置命令(広告差し止め、社名公表)
- 2年以下の懲役又は300万円以下(法人は3億円以下)の罰金
- 売上額×3%の課徴金
- 損害賠償請求
- 差し止め請求
措置命令(広告差し止め、社名公表)
景品表示法に違反した場合、行政処分として措置命令を受けることがあります。
不当表示の疑いがあると判断された場合、まず消費者庁から必要な措置を講ずるよう勧告を受け(景品表示法第28条第1項)、勧告に従わない場合、消費者庁はその旨を公表することができます(景品表示法第28条第2項)
薬機法の措置命令では社名公表されることはありませんが、景品表示法の措置命令ではケースによっては社名公表となるので注意が必要です。
2年以下の懲役又は300万円以下(法人は3億円以下)の罰金)
さらに措置命令に従わない場合「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(法人は3億円以下の罰金)」が課せられます(景品表示法第36条)。
売上額×3%の課徴金
措置命令を受けた場合、原則課徴金を納めなければなりません。金額は「違反を行っていた期間中における対象商品の売上額」×「3%」です。
損害賠償リスク
優良誤認表示や有利誤認表示をし、消費者に損害を与えた場合、民法第709条の定めるところの「不法行為責任」とみなされ賠償責任を負うことがあります。
差し止め請求リスク
た消費者契約法第2条第4項に「適格消費者団体」についての規定があります。適格消費者団体とは当事者に代わって差し止め請求や賠償請求ができる民間団体です。
景品表示法第10条に、適格消費者団体の差し止め請求権が規定されていて、消費者になんらかの形で損害を与えた場合、差し止め請求訴訟を起こされるリスクもあります。
健康増進法
- 措置命令(広告差し止め、社名公表)
- 6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金
措置命令(広告差し止め、社名公表)
健康増進法に違反する表示を行った場合、厚生労働省よりその表示に関し必要な措置をとるべき旨の勧告を受けます。(健康増進法第32条1項)
勧告を受けても措置をとらなければ、措置命令が出され、広告の停止や是正命令が下されます。(健康増進法第32条2項)
健康増進法の措置命令では多くの場合、事業者名が公表されることとなります。
6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金
措置命令に従わなければ「6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金」に処せられます(健康増進法第36条2項)。
信用失墜
ご紹介のように、薬機法や景品表示法、健康増進法などに違反した場合、行政処分や刑事処分のリスクがあります。ただ、行政処分で広告差し止めになっても、是正すれば再び掲載可能です。刑事処分で罰金をうけても支払えば罪を償ったとみなされるでしょう。
本当に恐れるべきはブランドの信用棄損リスクです。
今の時代、悪い評判ほど瞬く間に拡散します。不正をした者は容赦なくたたかれることは周知のとおりです。一度与えたマイナスの印象を払拭するのは容易ではありません。
とくに外見上のコンプレックスを刺激するような広告に対しては不快感を覚えるユーザーも多く、配慮が必要です。
現に、「外見を蔑視する広告、やめませんか?」と訴える署名キャンペーンが2020年4月にインターネット上で始まり、3万件以上の署名が寄せられています。
YouTube広告で違反しないためのポイント
YouTube広告出稿の際は「法律」と「人の心」両方への配慮が必須
ユーザーも多く、適切なユーザーにリーチが可能、費用対効果が高いなどメリットが多いYouTube広告。うまく活用すれば効果的な集客が可能です。
しかし配信の際には薬機法や景品表示法、健康増進法などに注意が必要です。行政処分や刑事処分には至らなくても、民法や消費者契約法上の問題となるケースもあります。とりわけ外見のコンプレックスを刺激するやり方は逆効果になるおそれがありますから使わないのが無難です。出稿の際には煽るような表現は避け、消費者によりそった広告を心掛けることが肝要といえるでしょう。
Life-lighterでは”好かれて売れる訴求”を基本理念に記事制作や法務コンサルティング、セミナー、薬機ライター養成などを行っています。
そのほか、いいかえ表現テクニックもHPで無料公開しています(ページ検索枠から「薬機法 いいかえ」で検索)
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などでも結構ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
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