近年「除菌」「殺菌」「消毒」などの効果をうたう商品が増えています。しかし、薬機法などの法律に抵触するケースがあるため、注意が必要です。本稿では「除菌」「殺菌」「消毒」「滅菌」「抗菌」の違いや雑品で可能な表現を商材別に、解説していきます。
情報の信ぴょう性については
- 日本でただ一人消費者庁に公的文書の誤りを指摘・改善させた実績
- 消費者庁及び公正取引協議会主催「景品表示法務検定」アドバンス(合格者番号APR22000 32)
- ハウス食品、エーザイ、NTTDoCoMo、徳間書店など上場企業との取引実績多数
- 東京都福祉保健局主催「食品の適正表示推進者」
- 民間企業主催の薬事法関連資格(薬事法管理者資格、コスメ薬事法管理者資格、薬機法・医療法遵守認証広告代理店、美容広告管理者など)
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をもつ専業薬機ライターが解説します。
「除菌スプレー」は認められるケースと認められないケースがある
結論からいうと、「除菌スプレー」は薬機法上認められるケースと認められないケースがあります。
以下では「除菌」「殺菌」「消毒」「滅菌」「抗菌」の違いや雑品の規制、「除菌スプレー」が認められるケースと認められないケースを解説していきます。
「除菌」「殺菌」「消毒」「滅菌」「抗菌」の違い
「除菌」「殺菌」「消毒」「滅菌」「抗菌」。似ていますが、それぞれ明確に違いがあります。
まずは、これらの言葉の意味を正確に把握しましょう。
除菌とは
「除菌」とは有害な菌を取り除くことを指します。薬機法上、「除菌」は、人や動物を対象として使用することができません。
滅菌とは
「滅菌」とは あらゆる微生物を完全に殺滅又は除去する状態を実現するための作用・操作を指します。
日本薬局方では滅菌を「微生物の生存する確率が 100万分の1以下になること」と定義しています。薬機法上、「滅菌」は医薬品と医薬部外品で使用が認められます。
殺菌とは
「殺菌」とは病原性や有害性を有する細菌など微生物を殺し減少させる操作を指します。具体的な程度は定義されておらず、生物に悪影響を及ぼす微生物が一部でも死滅すれば殺菌とみなされます。
薬機法上「殺菌」は医薬品と医薬部外品で使用することが可能です。
消毒とは
「消毒」とは微生物と考えられるものを不活化したり除去することを指します。薬機法上、「消毒」は医薬品と医薬部外品で使用できます。
抗菌とは
「抗菌」とは細菌やウイルスといった微生物の増殖を防止することを指します。薬機法上「抗菌」は人や動物を対象に使用することができません。
雑貨(雑品)について
「除菌スプレー」の表現がどんなケースで認められ、どんなケースで認められないかを解説する前に、雑貨(雑品)についておさえておきましょう。
雑貨(雑品)とは、薬機法の規制対象外のものを指す広告用語です。雑貨(雑品)の厳格な定義はなく、法律に定められた用語でもありません。薬機法の対象は医薬品と医薬部外品、医療機器、化粧品、再生医療機器ですから、それ以外のものはすべて雑貨(雑品)に該当することになります。
ただ実務上は雑貨(雑品)といえば、医薬品や医薬部外品、化粧品などに該当しない美容健康グッズを指すことが多いです。
雑貨(雑品)の例
- アロマオイル
- 健康器具
- 除菌グッズ
- 美顔ローラー
- 歯ブラシ
- マスク
「雑貨」と「雑品」は同じです。「雑貨」と呼ばれることもあれば「雑品」と呼ばれることもあります。
雑貨(雑品)で医薬品的効能をうたうとNG
雑貨(雑品)では医薬品的効能はうたえません。
医薬品的効能をうたうとNGとなるリスクがあります。たとえば以下の表現はすべて不可となるおそれがあります。
- アロマオイルで自律神経を整える
- 美顔ローラーでリフトアップ
- ダイエットベルトで痩せる
承認を受けていない雑貨(雑品)は医薬品効能もうたえない
雑貨(雑品) は薬機法の対象外なのに、どうして医薬品的効能をうたえないのでしょうか。
薬機法の未承認医薬品広告(第68条)では、承認を受けていない医薬品などについて名称・製造方法・効能・効果又は性能に関する広告してはならないと定めています。
薬品医療機器等法第68条(抜粋)
承認・認証を受けていない医薬品・医療機器・再生医療等製品について、その名称・製造方法・効能・効果又は性能に関する広告をしてはならない。
では雑貨(雑品)は医薬品や医薬部外品としての承認を受けているのか。
答えは「No」ですよね。
薬機法では、承認の範囲内でのみ標ぼうできる。雑貨(雑品)は医薬品や医薬部外品としての承認を受けていない。だから雑貨(雑品)では医薬品や医薬部外品の効能をうたえない。
なにも難しいことはありません。
では「除菌」は医薬品や医薬部外品効能に該当するのでしょうか。
東京都福祉保健局が毎年行っている医薬品等広告講習会の資料には、次のようにあります。
「除菌」を目的とするもの
Q 医薬品に該当しない?
A 殺菌による菌の除去のことを明らかに目的としている場合は、医薬品か医薬部外品
Q「除菌」効果は標ぼうできる?
A ふき取ること、洗い流すことを含めて除菌を標ぼうしている場合は、薬事非該当
医薬品等広告講習会 東京都福祉保健局
以下のように整理できます。
- 殺菌を目的とした除菌は医薬品・医薬部外品的効能
- 物ふき取ること、洗い流すことを含めた除菌は、医薬品・医薬部外品的効能にはあたらない
「ふき取ること、洗い流すことを含めて」とありますが、現時点ではふき取ること、洗い流すことのみを目的としている場合以外、雑貨(雑品)で「除菌」の語は使わないことをオススメします。
除菌や殺菌関係は近年摘発が相次いでおり、要注意な表現だからです。
除菌スプレーが「殺菌」を目的としている場合は不可
医薬品や医薬部外品的表現の場合、不可となります。
たとえば以下のような表現は、原則認められません。
- 殺菌
- 消毒
- 滅菌
- ウィルスを死滅させる
- 殺ウィルス
「滅菌」は「あらゆる微生物を完全に殺滅又は除去する状態を実現するための作用・操作」であり、薬機法上は原則医薬品と医薬部外品にしか使えません。
「消毒」は「微生物と考えられるものを不活化したり除去することを指します。薬機法上、「消毒」は原則医薬品と医薬部外品にしか使えません。
また物理的に取り除く効果を標ぼうする場合でも、特定の菌の名称を記載すると不可とされるおそれがあります。
除菌スプレーが物理的に菌を取り除くことを目的としている場合は可能
他方菌をふき取る、洗い流す、取り除く、落とすなど物理的に菌を取り除くことを目的としている場合は、「除菌」の標ぼうも問題ないでしょう。
雑貨(雑品)ではどこまでいえる?商材別にOK表現とNG表現を解説
ここからは、雑貨(雑品)の表現の考え方や具体的なOK表現とNG表現、摘発事例などを商材別に解説していきます。
- 除菌グッズ
- マスク
- 健康器具
- アロマオイル
1:除菌グッズ
ここまで見てきたように、除菌グッズは物理的に菌を取り除くことを目的としている場合は認められますが、菌そのものを殺すような表現は不可となる可能性が高いです。
除菌グッズのNG表現
たとえば以下の表現はすべてNGリスクがあります。
- 殺菌スプレー
- 殺ウイルス
- 滅菌スプレー
- スプレーで消毒
- アレルギーを無効化
- アレルギー物質から守る
除菌グッズのOK表現
除菌グッズで可能な表現は非常に限られています。以下の表現であれば、不可とされるリスクは低いでしょう。
- 菌をふき取る
- 除菌
- 菌を取り除く
除菌グッズの摘発事例
次亜塩素酸水の販売事業者3社に措置命令(2021年3月11日)
大分県の「OTOGINO」、兵庫県の「マトフアー・ジヤパン」、福井県の「遊笑」はチラシなどにおいて
・「菌やウイルスを瞬時に撃退!」「瞬間除菌」
・「99.9%瞬間除菌!」
・「強力 99.9%瞬間除菌 臭いも元から分解します」
などと宣伝しました。消費者庁が、表示の根拠について資料の提出を求めたものの「遊笑」からは資料は提出されず、残りの2社からも合理的な根拠は示されませんでした。
新型コロナウイルスへの効果を標ぼうし注意喚起(2020年3月27日)
2020年3月27日、消費者庁が新型コロナウイルスへの効果を標ぼうした除菌グッズを販売した1事業者に注意喚起を発出した事例です。
表示例
・「光触媒/除菌・抗菌・消臭スプレー、マスクや服に吹き付けたり、ソファーや壁、空間に吹き付けてもOK」
・「新型コロナウイルス、脅威のウイルス対策に」
・「光触媒により菌やウイルスの根本となる DNA を破壊し不活化、光触媒でウイルス不活化全身ガード!」など
2:マスク
マスクに関しても、殺菌・不活化、感染症予防を標ぼうするものは基本的にすべてアウトです。特定のウィルス名や細菌名だけで不可となるおそれがあります。
- インフルエンザ対策
- アレルギー物質から予防
- 殺菌ウィルスを不活性化
「花粉」は微妙なところですが文脈次第では不可となります。「花粉を分解する」と標ぼうし摘発された事例も存在します(後述)。
東京都福祉保健局が行っている、医薬品等広告講習会の資料には次のようにあります。
マスク(不織布)
Q 医療機器に該当しない?
A 不織布でできており、単に物理的な除去を目的とするものは非該当。ただし、殺菌・不活化を目的とするもの、菌やウイルスに対し、薬理的な作用などを有するものは薬事該当。
Q 問題となる標ぼうはどのようなものが
A 特定の細菌やウイルスに対する効果を標ぼうするもの、殺菌・不活化、感染症予防を標ぼうするもの「新型インフルエンザ予防に」等
医薬品等広告講習会 東京都福祉保健局
マスクのNG表現
マスクではたとえば以下の表現はすべてNGリスクがあります
- ウィルスを無力化
- 殺菌
- インフルエンザ対策
- アレルギー物質から予防
- 花粉を分解
マスクのOK表現
一方、以下のような表現は認められる可能性が高いでしょう。
- マスクでウィルスをシャットアウト
- マスクで花粉の侵入を防ぐ
- マスクで菌をカバー
- 抗菌マスク
マスクの摘発事例
光触媒を使用したマスクの販売事業者4社に対する措置命令(2019年7月4日)
DRC医薬、アイリスオーヤマ、大正製薬、玉川衛材に措置命令が発出された事例です。
光触媒素材を組み込んだマスク「花粉を水に変える」「光触媒で分解」「花粉の中のタンパク質を分解」「マスク表面に付着した菌やウイルス、花粉などが二酸化炭素と水に変わる!」などと表示していました。
消費者庁は「マスクを装着すれば、マスクに含まれる光触媒の効果で、花粉に由来するアレルギー物質やウイルスなどを科学的に分解するかのような表示」であると判断し、措置命令を出しました。
3:健康器具
健康器具そのものの「物理的効果」や「筋肉の運動」の範囲内であれば認められます。
- 筋肉を揉みほぐす
- 振動を与える
- 一分間に○○回の振動
しかし医療機器に該当するような表現は認められません。
- 脂肪燃焼
- 疲れをとる
- 背骨のゆがみを矯正
東京都福祉保健局が行っている医薬品等広告講習会の資料には次のようにあります。
筋肉運動補助器具
医薬品等広告講習会 東京都福祉保健局
Q 医療機器には該当しない?
A 筋肉の運動のみを目的としている場合は医療機器非該当
Q 問題となる標ぼうはどのようなもの?
A 運動マシンとしてだけでなく、肩や腰にあててコリをほぐしたり、運動後の筋肉の疲れに有効等の標ぼうをしているもの、脂肪減少作用等を標ぼうするもの
健康器具のNG表現
- 肩や首に装着してこりをほぐしす
- ふくらはぎに巻いて運動後の足の疲れをとる
- 筋肉がつく
- 脂肪が減少する
- 脂肪燃焼
- 疲れをとる背骨のゆがみを矯正
健康器具のOK表現
次のような表現であれば認められます。
- 筋肉を揉みほぐす
- 振動を与える
- 一分間に○○回の振動
健康器具の摘発事例
EMS機器を販売していた通販事業者4社に対する措置命令(2021年3月31日)
オークローンマーケティング、ディノス・セシール、プライムダイレクト、ヤーマンに対して発出された措置命令です。
対象となったのはオークローンマーケティングの「スレンダートーン アブベルト」とディノス・セシールの「クワトロビート」「TBCスレンダーパッドBE」、プライムダイレクトの「バタフライアブス」「バタフライアブスディープテック」、ヤーマンの「クワトロビート」「トルネードRFローラー」の七つ。
いずれも、テレビショッピング番組やネット通販の動画などで、腹部や身体の部位に商品を装着するだけで、腹部の痩身効果が得られるかのように表示していました。
4:アロマ・CBD
アロマやCBDに関しては、可能な表現が非常に限られています。
「アロマで睡眠の質改善」「CBDオイルで自律神経を整える」などの表現をよく見かけますが、すべて不可とされるリスクがあります。
アロマやCBDでは、空間や水への香りつけやそれによる間接的効果は認められます。
しかし身体への香りつけ、肌への効果といった化粧品的効能や自律神経を整える、ストレス改善といった医薬品的効能も認められません。
東京都福祉保健局が行っている医薬品等広告講習会の資料には次のようにあります。
エッセンシャルオイル
医薬品等広告講習会 東京都福祉保健局
Q 化粧品には該当しない?
A 空間・水の芳香付けを行うことを目的とする場合は化粧品非該当
身体への芳香付け、肌への効果を標ぼうするものは化粧品に該当
Q 問題となる標ぼうはどのようなもの?
A 香りの吸入により、鼻やのどの調子をよくする
香りの吸入により中枢神経を刺激してうつの改善、食欲増進等の作用を標ぼうするもの
アロマのNG表現
アロマでは以下の表現はすべて不可となるリスクがあります。
- エッセンシャルオイルで疲れをいやす
- オイルで自律神経を整える
- オイルで肌のきめを整える
- 精油の力でうつ病を改善する
- オイルが睡眠の質を高める
- アロマでストレス改善
アロマのOK表現
次のような表現であれば、可能です。
- いやし空間を演出する
- 香りで気分リフレッシュ
- 軽やかなあなたに
- 眠りにつきすい寝室へ
アロマの摘発事例令
新型コロナウイルスへの効果を標ぼうし注意喚起(2020年3月27日)
2020年3月27日、消費者庁が新型コロナウイルスへの効果を標ぼうしたアロマオイルを販売した1事業者に注意喚起を発出した事例があります。
表事例
・新型コロナウイルス(COVID-19)予防対策精油
・非常に強力な抗菌、免疫賦活の特質の精油を配合、新型コロナウイルス(COVID-19)の予防対策用ブレンド
精油。ラビィンツァラ、タイム、スターアニス、ジンジャー、シナモンカシア他 12 種類の精油をブレンド
雑貨(雑品)の規制は今後厳格化される可能性大!今のうちに対策を
雑貨(雑品)は現時点ではさほど厳しくは見られません。明らかに法に違反しているものでも、消費者への影響が大きいと判断されないかぎり、摘発されることは稀です。
しかし今後規制は厳しくなっていくことが予想されます。特にCBDに関しては厚生労働省によって「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が開催されるなど、近年動きがありそうです。今のうちから対策を講じておくことが重要です。
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