「薬機法が厳しくなっていると聞くけれど、違反したら具体的にどうなるのかは詳しく知らない…」実は、一流企業のマーケターにさえこのような方は少なくありません。そこで本稿では薬機法に違反した場合のリスクを景品表示法、健康増進法とあわせて紹介します。
なお情報の信ぴょう性については
- 景品表示法務検定アドバンス
- 食品の適正表示推進者(東京都福祉保健局)など
を所有する専業薬機ライターが解説していますのでご安心ください。
リスク1:行政処分
まずは行政処分について解説します。
課徴金については厳密には行政処分とは異なり、調査も別立てで行われますが、わかりやすさを重視し、本章に記載しています。
薬機法の行政処分:措置命令、4.5%の課徴金納付命令
措置命令
薬機法に違反した場合、措置命令・課徴金納付命令が下されることがあります。
実は以前から、広告に違法性がある場合には、刑事処分や行政処分での対応がなされていました。しかし違法な広告で得た収益は、罰を受けても違反事業者の手元に残るという問題がありました。また虚偽・誇大広告に違反した場合の罰金は200万円以下であったため抑止力が利かなったのです。
そこで2019/11/27に薬機法が改正され、2020/8/1からは薬機法でも措置命令制度が開始しました。薬機法の措置命令では社名は公表されません。
課徴金納付命令
措置命令制度の開始とともに課徴金制度がスタートしています。
課徴金納付命令は一定の要件を満たした場合に下されます。薬機法における課徴金制度の金額は違反期間中の売り上げ×4.5%です。
もっとも課徴金の対象は誇大広告(薬機法第66条)のみで、未承認医薬品広告(薬機法第68条)は対象とはなりません。
景品表示法の行政処分:措置命令、3%の課徴金納付命令
措置命令
景品表示法における違反事業者への行政処分は措置命令(景品表示法第7条1項)です。
内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる
景品表示法第7条1項
措置命令の内容はケースによりますが、おおむね次の通りです。
- 広告内容の是正
- 再発防止策
- 違反の事実の公表など
景品表示法の措置命令では原則社名公表されることとなります。また措置命令は不当表示の終了後、すなわち違反行為がなくなっていても行えます(既往の違反)
除斥期間(時効)も設けられておらず、違反後どれだけ時間が経過しても措置命令を発出できます。
課徴金納付命令
そして一定の要件を満たした場合課徴金納付命令が下されます。景品表示法における課徴金制度の金額は「違反期間中の売り上げ×3%」です(景品表示法第8条)。
(課徴金納付命令)
第八条 事業者が、第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、内閣総理大臣は、当該事業者に対し、当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
景品表示法第8条
景品表示法の課徴金について詳しくはこちら
健康増進法の行政処分:勧告、措置命令
勧告
健康増進法に違反する表示を行った場合、厚生労働省よりその表示に関し必要な措置をとるべき旨の勧告が出されます。
内閣総理大臣又は都道府県知事は、(中略)その者に対し、当該表示に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。
健康増進法第66条1項
措置命令
勧告を受けても求められた措置をとらなければ、措置命令が出されます。
内閣総理大臣又は都道府県知事は、前項に規定する勧告を受けた者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、その者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる
健康増進法第66条2項
健康増進法の措置命令では多くの場合事業者名が公表されることとなるため注意が必要です。
リスク2:刑事処分
続いて刑事処分について解説します。
現段階では広告の違反で刑事事件になることは稀ですが、今後厳しくなっていく可能性はあります。
薬機法の刑事処分:「2年以下の懲役または200万円以下の罰金、もしくは併科」など
2年以下の懲役または200万円以下の罰金もしくはその両方
未承認医薬品広告(薬機法第68条)と誇大広告(薬機法第66条)に違反した場合、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金もしくはその両方」が課せられるおそれがあります。
すでにお伝えしているように、誇大広告については薬機法でも令和3年8月1日より課徴金制度がスタートしています。
3年以下の懲役または300万円以下の罰金もしくはその両方
未承認医薬品等の販売、授与(第14条1項、9項、第55条等)に抵触した場合した場合、「3年以下の懲役または300万円以下の罰金もしくはその両方」が課せられるおそれがあります。
薬機法の規制は「何人規制(なんぴときせい)」と呼ばれ、業種業態、個人法人問わず規制対象です。2021/3/17には個人のアフィリエイターが逮捕された事例があります。
2021/3/17 個人のアフィリエイターが逮捕・書類送検されました。
書類送検されたのは、神奈川県茅ケ崎市在住の自営業の男性(51)。アフィリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)を通じて、健康食品の販売者である広告主と契約。自身が運営するサイトにおいて、この健食について「更年期障害、糖尿病、痛風の予防・改善に効く」などと紹介していました。
大阪府警は、健食で医薬品的効能効果を標ぼうしていたとして、この男性を薬機法違反(未承認医薬品の広告の禁止)の疑いで書類送検しました。
景品表示法の刑事処分:「2年以下の懲役または300万円以下の罰金もしくは併科」「3億円以下の罰金」など
2年以下の懲役または300万円以下の罰金もしくはその両方
景品表示法の措置命令に従わない場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金あるいはその両方が科されることがあります(景品表示法第36条)
第七条第一項の規定による命令に違反した者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。
景品表示法第36条
3億円以下の罰金
法人には3億円以下の罰金(両罰規定)が科されることがあります(景品表示法第38条第1項第1号、第2項第1号)
第三十八条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
一 第三十六条第一項 三億円以下の罰金刑
二 前条 同条の罰金刑
景品表示法第38条第1項第1号、第2項第1号
300万円以下の罰金
さらに措置命令違反の計画を知り、その防止に必要な措置を講じなかった当該法人の代表者に対しても300万円以下の罰金(三罰規定)が科されます(景品表示法第39条)
第三十九条
第三十六条第一項の違反があつた場合においては、その違反の計画を知り、その防止に必要な措置を講ぜず、又はその違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた当該法人(当該法人で事業者団体に該当するものを除く。)の代表者に対しても、同項の罰金刑を科する。
景品表示法第39条
健康増進法の刑事処分:「6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金」
6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金
健康増進法の措置命令に従わない場合「6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金」に処せられます(健康増進法第71条)
第六十六条第二項の規定に基づく命令に違反した者は、六月以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
健康増進法第71条
<違反の発覚経路は?>
薬機法や景品表示法、健康増進法などの広告違反が発覚する経路は大きく「行政パトロール」「事業者や消費者による通報」の2パターンです。発覚経路の8割以上が事業者や消費者による通報といわれています。
通報フォームが厚生労働省や日本化粧品工業連合会のHPに設置されていて、誰でも簡単に通報できる仕組みになっているのです。
薬機法・景品表示法の知見が世間に広まるにつれて、通報も盛んに行われるようになっていくでしょう。同業他社はもちろん、貴社に 反感を持つ人が重箱の隅をつつくように違反箇所をみつけ通報するかもしれません。
今後、より手軽に通報できるシステムが導入されていく可能性もあります。
リスク3:信頼失墜
法律に違反した場合のダメージは行政処分や刑事処分だけではありません。むしろ本当に怖いのは信用失墜による損失です。国からの処分は、求められる措置を講じれば、もしくは刑に服せば終わります。
しかし信用がなくなることによる損害は、回復するのは容易ではありません。
企業のリスク:ブランド毀損、売り上げ低下、ファン離れなど
たとえば企業の場合、まず最初に取引先が離れていきます。ブランド価値は地に落ち株価は低迷、ステークホルダーとの関係は悪化します。取引停止が相次ぎ、社員のモチベーション低下も招くでしょう。有能な人材が流出してしまうかもしれません。
消費者からの好感度も下がり、売り上げも低下するでしょう。拡散スピードが速い現代です。悪い情報ほどあっという間に広がります。もちろん、まったく売れなくなることはないかもしれません。ただ競合と比較されたとき、どうしても弱くなってしまいます。
同程度のスペックの商品が並んだとき、消費者が選ぶのは好感を持つ、応援したくなる企業のものだからです。
個人のリスク:契約解除、収入減少、賠償責任など
個人の場合も社会的信用を失えばダメージはまぬかれません。
契約を解除され、収入は大幅に減少します。企業とのタイアップ案件なども一切入ってこなくなるでしょう。今般の規制強化を受け、企業はこのあたりに慎重になっているからです。企業に損害を与えた場合、賠償請求される可能性だってあります。
そしてある程度の影響力を持つ人が違反行為をした場合、それまでの人気が高いほど、後の反動は大きなものになります。
たとえば2020年、豊胸手術をしていたにも関わらず、その事実を隠しながらバストアップ効果を謳うナイトブラをプロデュースしていたことが判明し大炎上した「てんちむ」さん。
彼女は商品の購入者に対して自腹で返金する羽目になったのです。当時は人気があったようですが、その後姿を消しています。
「てんちむ」こと橋本甜歌氏はYouTubeでの配信活動の傍ら美容健康通販ショップ「キレイノワ」の『モテフィット』と称する下着(ナイトブラ)のプロデュースをしていました。彼女のバストアップ効果は当該商品の効果であると宣伝していましたが実は豊胸手術によるものであることが後に判明し、大炎上しました。
摘発される可能性どのくらい?
「いくら法規制が厳しくなっているとはいえ、違反行為が発覚し摘発されることはめったにないのでは」こんな風にお感じの方もいらっしゃるかもしれません。では違反した場合に、行政に見つかるリスクはどのくらいあるのでしょうか。
中小企業でも摘発リスクはある
以前は摘発対象となるのは多くの場合、大企業の商品でした。大手の商品を”見せしめ”的に摘発するケースが圧倒的多数だったのです。しかし昨今は企業規模にかかわらず、行政処分の対象となっています。
たとえば2020/6/26には有限会社ファミリア薬品が景品表示法の優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)で摘発をうけています。有限会社ファミリア薬品は従業員20名、資本金800万(当時)の小さな会社です。
2020/6/26 有限会社ファミリア薬品に対する措置命令
有限会社ファミリア薬品は、洗顔石鹼「朱の実」と称する石けんについて、自社サイト「芦屋美蓉館」や情報誌で「年齢のせいにしていた、そのシミ…老班が消えた⁉」「エッ?洗顔で老班やシミが薄くなる?」等と記載していました。
しかし実際には根拠のないものであり、消費者庁は措置命令を発出しました。
その後2022/8/9に459万円の課徴金納付命令が出ています。
つまり企業規模にかかわらず摘発されるリスクがあります。
現段階では違反=摘発ではない
ただ正直なところ、現状では広告表現については薬機法、景品表示法、健康増進法ともに違反をしたからといって必ずしも行政の処分が下されるわけではありません※。
問題のある広告が放置されている理由は定かではないものの、おそらくリソースの問題と考えられます。つまり違反件数が多すぎて取り締まりが追い付かないのです。感染症の対応に手を取られていることも大いに関係しているでしょう。
※薬機法に関しては行政処分レベルでは摘発の事実が公表されません。つまり一般の人は知らないだけで、実際には薬機法違反で多くの摘発がなされている可能性もあります。
今後摘発は強化される
もっとも、規制取り締まり強化に向けて法整備が進んでいるのも事実です。たとえば直近3年間でも以下の動きがあります。
- 2019/9/14「医薬品等適正広告基準」改定
- 2019/11/27 薬機法改正
- 2021/3/15特定商取引法改正
- 2021/8/1薬機法で課徴金・措置命令制度スタート
- 2021/6/10~「アフィリエイト広告等に関する検討会」を6回開催
- 2022/3/16~「景品表示法検討会」を10回開催
- 2022/6/1改正特定商取引法施行
- 2022/6/29「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」改訂
- 2022/9/16~「ステルスマーケティングに関する検討会」を10回開催
- 2022/4/1「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」改訂
- 2022/10に再改訂
近々に規制が強化されることは確実です。なかでも景品表示法や特定商取引法といった消費者保護法は頻回に改今正されていくことが見込まれます。
2023年秋にはステルスマーケティングの規制が景品表示法5条3号の「指定告示」に追加されることが大筋で決定しています。
「急がば回れ」コンプライアンスの徹底が利益拡大の近道
薬機法や景品表示法といった法律は以前からあったものの、規制も緩く、違反してもつかまることはありませんでした。法律の存在を知る消費者そのものも少なく、やりたい放題、騙し放題のまさに無法地帯だったのです。
しかし時代は変わり、法規制は徐々に整い始めています。消費者のリテラシー・権利意識も上がり、違反した場合に通報が入るリスクが格段にあがったといえるでしょう。
広告法務は予防法務の考え方が極めて重要です。行政からの処分はまぬかれても、広告審査落ちや適格消費者団体からの訴訟リスクはあります。コンプライアンス意識を高く持ち、クリーンなクリエイティブで訴求することが、結局は利益拡大の最短ルートといえるのではないでしょうか。